| やさしさの意味 Side / Ades 3.数ある構図 そのホテルは、政府関係者が頻繁に使用するとあって、セキュリティにも定評があった。 我々と同じように宿舎を締め出された者が、一夜の宿を求めて来たのだろう。ロビーには、軍の制服姿が多かった。そこへ、白い制服の隊長が登場したのだから、目立つことこの上ない。 ホテルのフロントマンが機転をきかせて、手続きなしで部屋へ案内してくれた。 あのままフロントで待たされたら、また、余計な輩に声を掛けられるのではないかと警戒していただけに、ホテル側の配慮がありがたかった。 私のすぐ前を歩く隊長の歩調も今はしっかりしている。 この分なら問題ないだろうと一人安堵した。 「隊長、荷物はこちらに置いておきます。何か召し上がりますか?」 「いや、いい。それより何か飲みたいな」 「コーヒーは胃に悪いので駄目ですよ。ミネラルウォーターでいいですね」 部屋に入り、備え付けの冷蔵庫から水のボトルを出しながら、自分の健康管理にあまり気を配らない上官にやんわりと釘をさす。 水の入ったグラスを手に振り向くと、制服の襟を緩め、仮面をはずした隊長が、窓際のソファにぐったりと身を沈めていた。 手の甲を額に当てて大きく息をもらす姿に、今日一日、だいぶ無理をしていたことがわかった。 「隊長、水です」 そっと近寄り声をかける。 「ああ…すまん」 グラスを受け取ろうとして、彼が身を起こす。 受け取ったグラスを口元に運ぶ手が震えている。 その震えは、グラスに入った水を零す程のものではなかったが、私はとっさに、手を添えていた。 グラスを持つ隊長の手を包み込んで、彼に水を飲ませる。 緩めた襟元から水を嚥下する喉の動きが見えた。 グラスが空になるまで、お互い無言だった。 沈黙を破ったのは隊長が先だった。 「…シャワーを浴びてもう休む。お前も部屋へ戻れ」 そう言って、立ち上がると、制服の上着を脱ぎ、ベッドに放り投げてバスルームへ向かった。 彼の姿が扉の向こうに消えても、私は動かなかった。彼の現在の状態では、バスルームで倒れたりしないか心配だったからだ。 彼がシャワーを浴びて、ちゃんとベッドに入るまで勝手に待たせてもらうことにした。 バスルームのドア越しにシャワーの水音が聞こえてくる。 私は、待つ間に作戦資料ディスクのコピーをとることにした。携帯用パソコンを取り出し、作業をはじめる。コピーをとるだけなので、数分で終わった。 端末の電源を落とし、片付けようとした時、バスルームからガタンと、何かがぶつかる音が聞こえた。 「!?」 (やっぱり……) すぐにバスルームのドアをノックする。 「隊長!どうかされましたか?」 何度か呼びかけたが、返事がない。非常にまずい状態だ。 「失礼!入ります」 ドアを開けるともうもうと立ち込める湯気に目の前が白く霞む。案の定、バスタブにもたれるようにして隊長が倒れていた。 「隊長!」 シャワーの湯に制服を濡らしながら、隊長の身体を抱き起こす。シャワーを止めたところで、隊長が目を開けた。 「…アデス……?」 「隊長!大丈夫ですか!? 今、ベッドへお連れしますから…」 「いい。ここで…」 「駄目です!こんな状態でどうするつもりですか!?」 「まだ……落ちてない……」 「は……?」 何が落ちていないのかと訝ると、隊長は私の腕から逃れようとする。 だが、到底一人で立てるような状態ではなくて、崩れ落ちそうになった身体を再び抱き止める羽目になった。 「……アデス…気持ちが悪いんだ」 「だったら尚更です!」 無理やり抱き上げて運ぼうとすると、彼は私の首に手をまわし、耳元で囁く。 「……あの男の痕が―――」 一瞬動きが止まる。隊長がみなまでいう前に理解した。 舌打ちしたい気持ちを堪えて、隊長の身体を抱いたまま、バスタブに腰掛けた。 「お手伝いします」 「――なっ!お前…」 彼の反論と動揺を唇で遮る。 軍本部を出でてから、チリチリと胸を焦がしていたのは、嫉妬だった。 隊長を抱いたであろうあの男への。 口付けは、荒々しいものとなり、彼は、息を乱し私に縋りつく。 舌を絡め、唇を思う存分味わう。 片腕で、彼の身体を支え、口付けを深くしながら、もう片方の手でシャワーのコックをひねる。濡れた口付けの音が、水音にかき消された。 そのまま空いた手を彼の背骨に沿って下へ滑らす。彼の身体が一瞬震えた。 中指で彼の後庭の周りを掠めるように触れる。 それだけで、彼の身体は、跳ね上がった。 傍にあったボディーソープを手になじませ、後庭に滑り込ませた。 「は………っ」 入れた瞬間、彼が息を詰める。 だが、すぐに力を抜いて、私の肩に頭をもたれかけた。指を奥へ進めると、ぎゅっと私の頭を抱え込むように抱きしめた。 ゆるく動かしながら更に奥へ進めた。 「ンン……」 快感を堪えるようなくぐもった喘ぎ。 ほとんど慣らさずに私の指は根元まで入ってしまった。 そして、ボディーソープ以外の濡れた感触。先程の情事の名残らしいものが、溢れ出す。その白濁した粘液を掻き出すように指を曲げる。 私は、彼の中に残る液体をすべて取り除こうと、自棄になって指を動かした。 それは、ほとんど愛撫と変わらないわけで、彼の唇からは、ひっきりなしに声が漏れる。 「ああ…っあ……ンンッ…や…」 指を増やして、彼の中を更にかき回した。ドロリと流れ落ちる白濁した液体は、シャワーに洗い流されて排水溝へと消えていった。 湯冷めしないようにと、隊長の身体に湯がかかるようにして、行為を続ける。 もちろん私の衣服も濡れて、身体にまとわりついた。 彼の身体を伝い流れる湯は、私の手を伝って、彼の内まで流れ込む。その湯で中を洗い流すかのように激しく抜き差しを繰り返した。 摺り寄せられる彼の額。 無骨な私の指が出入りするたびに熟れた内壁が、より熱く、溶けていくようだった。 「もう……いいっ!あ…ふ……抜けっ、ンン…指っ……」 彼の口から、言葉にならない、途切れ途切れの単語が聞こえる。 「…もう、よろしいので?」 意地悪く耳元で囁きかけ、彼の耳に舌を這わせた。 軽く甘噛みするだけで、内壁が指を締め付けた。 「は…ぁッ……アデスッ―――もうっ…」 後ろを嬲られて感じた彼の前のものが限界にきたようだ。彼のものを包むようにして扱いてやる。 「や…ぁ………駄目だっ…」 前と後ろを同時に嬲られて、感極まった声が響く。熱い吐息は、水音に吸い込まれるように消えていった。 その後、彼自身が吐き出した白い液体と身体をシャワーで洗い流し、バスタオルでくるむように彼を抱き上げた。 くたりと力の抜けた身体を私に預けて、熱い吐息を乱しながら、彼は私の耳元に唇を寄せる。 「……足りない」 囁いて、私の耳にお返しとばかりに噛み付いた。 「―――仰せのままに」 彼を抱いたまま、足でドアを軽く蹴り開け、バスルームを後にした。 ベッドに彼を下ろして、私は濡れた軍服の上衣を脱ぎ捨てた。 湯にあたって上気した肌を冷やさないよう、タオルで手早く彼の身体を拭く。身体に柔らかな布地の感触を与えながら、啄ばむような口付けを彼の唇に落とした。 水分を含んだ肌がしっとりとしていて、なまめかしく感じてしまう。 水気を含んだ髪から雫が頬を伝い落ちた。 彼の濡れた前髪をかき上げ、額と瞼にもキスをすると、彼は、少しくすぐったそうな顔をした。 露わになった彼の素顔にしばし見惚れた。 「どうした?」 「いえ、きれいだな…と」 身体が冷えないように彼の肩にバスローブをかけ、雫が滴る金髪に手を伸ばす。 濡れた髪を梳く様にして拭いた。 鼻先が触れるくらいまで近づいて、気持ちよさそうに瞼を閉じた彼の顔を見つめた。もちろん手は動かしたまま。 「アデス」 「はい?」 「続きを」 「はい」 それが合図。唇が触れると同時に口付けを深くした。 鎖骨の上に朱い跡がひとつ。 その上から強く口付けると、鬱血がひどくなった。 彼の身体を傷つけているようで非常に不本意だったが、それが彼の望みなのだから仕方ない。 首筋から胸元にかけていくつも散らばる朱い跡を一つずつ濃くしていった。 「は……っ」 荒くなる呼吸。彼の手は、もどかしいように私の髪をまさぐっていた。 「アデス…焦らすな。あまり保たんぞ」 「そうでしたね」 彼の催促で、名残惜しかったが胸元の愛撫から撤退した。 そのまま、唇で臍の辺りにキスをする。 「もう、濡らさなくて大丈夫でしょうか?」 「たぶん……」 彼は、そう答えたが、できるだけ身体に負担を掛けたくなかった。 先程、潤滑油代わりになったものを洗い流してしまったので、もう一度ちゃんと濡らしたほうがよさそうだった。 私が、自分で指を舐めて濡らそうかと、手を口元に持っていくと、 「私がやる」 驚く暇もなく、私の手を取り、彼は自分の口元へ持っていく。 そのまま私の指を舐め始めた。 始めは、一本。 そして二本。 時折口腔内に指を入れ、指の根元を甘噛みする。 私は、誘われるように、彼の口腔内で指を蠢かした。 頬の裏の粘膜、熱く熟れた舌、とがった犬歯にも戯れるように触れた。 私の指を一生懸命舐め上げる隊長の姿は、はっきり言って、かなり視覚的にくるものがあった。 「隊長……もう、結構です」 私の理性の糸が切れる前に控えめに申し出た。 「…ン」 口に指を含んだままの返事が、鼻にかかったようで、妙に甘く聞こえる。 隊長の口から指を取り戻すと、そのまま彼の後庭に滑り込ませた。 「は…あっ……」 熟れた内壁が指に絡みつくようだった。 「あっ…ぁ……ンン」 普段の冷静な彼の姿を見慣れているせいで、彼が快感に乱れる姿は、非常に訴えるものがあった。 そのギャップに私は溺れた。 それにしても、こんなに彼が乱れるとは予想していなかった。 体力があまり残っていないせいで、いつもなら耐えることができる媚態を耐えられなくなったということだろうか。 まあ、見たことのない彼の姿を見られたので、役得といえば役得か。 彼が思うさま乱れる姿をひとしきり堪能した。 指を引き抜き、衣服を全て脱ぎ去ると、彼の脚を肩に抱え上げた。 彼の口元が笑みを刷く。 舌で唇を濡らすしぐさは、私への挑発。 そのまま膝が胸につくくらい腰を押し上げて、己の怒張を彼の中に突き入れた。 指とは比較にならない圧迫感に、彼は瞬間息を詰めた。長い時間かけて慣らされた器官は、私をすんなりと受け入れる。 だが、眩暈のするような熱さと締め付けに、私の怒張は更に大きくなった。 「あ…」 それを感じたかのように眉根を寄せて快感に耐える彼の表情は、予想以上に私を煽った。性急に動きだす。 「あっ…あっ…は……ぁっ…あっ…ン」 動きに合わせてひっきりなしに洩れる喘ぎ。 過去に何度か肌を合わせたことはあるが、ここまで理性を飛ばす彼の姿は見たことがなかった。 目には生理的な涙さえ浮かべて、快感だけを追う姿は、どこか痛々しく感じられた。だが、それ以上に壮絶な色香で私を昂ぶらせた。 彼の屹立したものにも手を伸ばし、腰の動きと同じリズムで扱き上げる。 更に締め付けが強くなった彼の内に私は、想いを吐き出した。 最奥に注がれた感覚に震えるかのように、彼もほぼ同時に果てた。 ほとんど意識が朦朧としているのだろうか。薄く開かれた唇が熱い吐息を洩らす。 ずるりと彼から自分の怒張を抜き去ろうとすると、その感覚に彼の身体が跳ねた。 「くっ……ン」 再び私を包む内壁に力がこもる。 「く……っ、隊長…もう駄目ですよ」 いくらなんでもこれ以上はまずい。 体力が落ちている人をここまで抱いておきながら今さらだったが、やんわりと制止した。 その言葉に抗うかのように私の首に腕がまわされ、頭が抱き寄せられた。 彼がキスをねだった。 「隊長……」 まだ、身体を繋げたまま、それに応えると、再び熱をもち始めたのが自分でもはっきり分かった。身体は正直だ。 「…アデス……まだイケるだろう?」 彼がこちらの状態を見透かして、ニヤリと笑う。 「知りませんよ……どうなっても」 半ば諦めてため息をつく。 その後、彼が意識を失うまで抱き合うことになった。 半ば気を失うかのように眠りについた隊長の身体を拭い清めて、脱ぎ散らかした衣服を片付ける。 すぐ隣のルームナンバーを記したメモを彼の枕元に残して、自室に戻る頃には空が白み始めていた。 部屋に戻ってから、フロントに滞在延長の連絡と軍服のクリーニングを依頼した。 その後、自分もようやく眠りにつくことができた。 |