| ※「やさしい波風」補足SS ◇Side:G カタギリが軍の機密情報を持ち出したことに気付いたのは、おそらく自分だけだろう。 どこか、そわそわと落ち着かない様子のカタギリを不審に思って諜報部の真似事のようなことをやった結果、ある女性と密会している場面に遭遇した。 手には、おそらくデータが入っていると思われるメモリスティック。 別れ際、女性の背を切なげに見つめるカタギリの表情が忘れられない。 尾行なんてするんじゃなかった。何も気付かない振りをすればよかった、と後悔した。 カタギリの過去を自分は知らない。別に知ろうとも思わなかった。 ただし、それが『過去』であったのならだ。 こうして、蘇ったカタギリの過去を目の前にして、『現実』という名の壁に突き当たったグラハムは、彼女のことが気になりはじめた。 エイフマン教授とカタギリの間で交わされた「クジョウ」という女性の名前が脳裏を巡る。 戦術予報士であり、過去に空軍で起こった事件に深く関わる女性。 持ち出したデータと事件に関わるだろう女性……そして、おそらく彼女は、カタギリと私的な関係にあったはずだ。 本来なら、しかるべき筋に報告し、しかるべき処置が取られるはずであり、自分の職務上、そうしなければいけないということも分かっていた。 だが、それは決別を意味した。 それでも、軍人として軍の機密情報を持ち出した件については、釘を刺すべきだった。 何を怖れているのか……グラハムは、自分でも馬鹿馬鹿しい思うような未練と執着に胸を焦がし、結局何も言えないまま日々が過ぎた。 忙しさのせいもあり、グラハムは、カタギリとプライベートな会話すらできずにいた。よそよそしい空気を纏ったままのグラハムの態度にカタギリも気付いていたのかも知れない。 お互いに何も触れず、何も言わず、ただ仕事をこなす毎日だった。 私はどうしてここにいるのだろう。 グラハムは混乱する頭で、そう思った。 いや、これは混乱ではない。 自分は、自分の意志でこの場所にいるはずだ。 だから、これは混乱した末の行動ではない。 自分では冷静に判断して動いているつもりだった。 next |