++夏期休暇・前編 (お試し小説)++




糊のきいた真っ白なシーツが肌に気持ちよかった。
久しぶりのオフの前日、カタギリとグラハムは、グラハムの部屋で飲んだ後、戯れのキスから始まってソファの上でお決まりのコースへと雪崩れ込んだ。

「休暇?」

場所をベッドに移して清潔なシーツの上で寝転がって情事の余韻を楽しんでいたグラハムに、カタギリがふいに休暇の申請をするつもりだと言い出した。

「ワーカホリックの君にしては珍しいな」

「うーん、でも七割くらい仕事で、休暇は三割くらいかな」

「なんだそれは」

「―――ちょっと、行きたいところがあるんだ」

普段、自分から休暇を取りたいと言い出すことがないカタギリの言葉にグラハムは興味をそそられた。

「どこだ?」

「日本」

「ふうん、里帰りか?」

カタギリの長い髪を弄びながら、グラハムが問う。さらりとして冷たい髪の感触がグラハムは好きだった。特にセックスの後で火照った身体を冷ます間の手慰みにはちょうどいい。枕を抱き込むようにして、腹這いになって足を曲げては伸ばすを繰り返す。白いふくらはぎが、誘うように揺らめいていた。

「里帰りというのも少し違うかな。向こうに親族はいるけど、けっこう遠い親戚だよ。祖父の兄弟のその孫、ひ孫達だからね。顔を合わせたことはないかな」

「KICの日本支社には、その親族がいるのだろう?」

「まあ、そうだね。親戚の人が何人かいるはずだとは思うけど。今回は別にKICに用はないから」

「そうか、なら学会か? それにしては時期が悪いな」

「いや、違うよ。知人からちょっと情報を仕入れたものだから、その確認に行きたいんだけど日程が上手く合わなくてどうしようかと思っているとこ」

「そうか。七割については承知したが、肝心の残り三割は?」

「うん、せっかく日本へ行くなら、墓参に行ってこいって言われててさ」

気が進まない様子でため息をついたカタギリを見てグラハムが眉を曇らせた。

「言われたというのは、その……君の父上にか?」

グラハムがおそるおそるという風情で尋ねた。カタギリが父親と上手くいっていないという話を先日聞いたばかりだったからだ。

「いや、祖母に」

「君のおばあさまはご健在なのだな。確かカナダ人だったはずだが?」

「うん。だけど、祖母は亡くなった祖父の故郷には思い入れがあるらしくて、今も日本の本家とは交流があるんだよ。子供の頃、祖父の田舎には何度か僕も連れて行ってもらったんだ」

「そうか、カタギリの家は大家族なのだな」

「大家族っていうか、日本は血縁と家というものを尊ぶ民族だからかな。会ったこともないし、名前も知らない叔父、叔母、従兄弟たち、その他親戚と名がつく人たちが大勢いるよ」
カタギリが苦笑した。

「どんなところなんだ?」

「どんなって……田舎だよ。曾祖父は田舎を飛び出して東京で成功した人だけど、出身は山間の小さな集落だよ。祖父も幼い頃はよく遊びに行ったって。平らなところは一面田圃で、山の斜面は茶畑か、みかん畑で、民家は山裾に集中していて」

「タンボ?」

「ああ、お米の畑のこと。今時、あんな風景が残っている場所も珍しいんじゃないかな。今では田舎暮らしを愉しみたい都会人に人気なんだって」

遠い目をして懐かしそうに語るカタギリの横顔を見つめ、グラハムが目を輝かせた。

「よし。私も行くぞ」

「え?」

「君の故郷とやらに私も興味がある」

「いや、僕の故郷ではなくて……曾祖父と祖父のなんだけど」

「ふむ、君のDNAの起源をさぐる旅というのも面白いかも知れないな」

グラハムは、カタギリのツッコミを軽く無視して、独り言のような呟きを続ける。

「日本か……対人革連の要衝で、ユニオンの中では極東の重要拠点だからな。確かアツギベースには、フラッグも配備されているはずだな。何かあっても対応できるだろう」

「対応できるって……まさか、君――!」

「カスタム・フラッグを持って行ってよいのならばそうしたいが、上と掛け合うには、それ相応の理由が必要だな」

「ええっ!? 本気で言ってるの?」

「半分な」

グラハムの言葉に、カタギリは目を丸くしていたが、ふと何か思いついたように、腕組みをして考え込んだ。

「……じゃあさ、残りの半分は僕が何とかするから、一緒に来ない?」

「――本気か?」

「だから、それは僕の台詞だって」
カタギリが苦笑した。

「実は、日本へ行く目的はフラッグのカスタマイズが関係していて、その事前調査というか、新システムとパーツの現物を見に行きたいわけ」

「取り寄せることはできないのか?」

「まだ、研究所内にある試作品だからね。兵器としてちゃんと使用できるかどうか、この目で見極めたい。その上で、もし君のフラッグに搭載可能なら、機体との相性も見たいし、その場でテストしたいなぁって。担当の技術者を本部まで呼んで、機材も持ってきてもらうと時間掛かるし、あの国は同じユニオン陣営とはいえ、国外への兵器輸出が厳しいからね。米軍基地内までならすぐにでも持ち込めるし、フラッグとの相性が悪ければ、その場で返品できるし、一石二鳥だよ。この理由ならカスタム・フラッグと君も一緒に日本へ行ける」

「よく、そこまで頭が回るな」

呆れ半分、感心半分の気持ちでグラハムがカタギリを見る。

「理論の実現は、できるってだけじゃ駄目なんだよ。特にMSWADでは国家予算――僕等の税金を使っているから費用対効果も考えないとね」

「つまり配備できるなら、手間と金を掛けずに早いほうがいい――ということだな?」

「そゆこと。ガンダムは待ってくれないからね」


カタギリが片目を瞑って笑うと、グラハムにキスをした。