4 暗闇の戦い







本国に帰艦したクルーゼ隊は、隊長以下数名を残し、そのまま艦内待機となった。クルーゼとアデス、ミゲルの3名は報告のため、ザフト軍本部及び国防委員会へ赴いた。
軍港からシャトルでプラントへ向かう。
細長い砂時計の形をしたプラントの中央部のくびれから、砂時計のちょうど底辺にあたる居住区まで、プラント内部をつなぐシャフトの中を数キロにわたって伸びるエレベーターがある。そのエレベーターからは、水をたたえ、自然豊かなプラント内部の様子を眺めることができた。
だが、湖も森も全て人工的に造られたものだ。コーディネーターのための快適な居住空間といえば、聞こえがいいが、地球上に故郷を持つことが許されなかったコーディネーターにとっては唯一の「ふるさと」でもある。

クルーゼはエレベーターの中、簡易座席に足を組んで越し掛け、報告書に目を通していた。
同行するアデスがすぐ脇に立ち、さらにその横にミゲルが手を後ろで組み立っていた。

ミゲルは、夕暮れに染まるプラント内を眺めながらつぶやいた。

「この光景を見ると帰ってきたという感じがしますね」

ミゲルの言葉にクルーゼが書類から顔を上げる。

「すぐにまた戦場へ――だがね。ミゲル、君のご両親は?」

「両親ともコーディネーターです」

「そうか、君は二世代目か」

「はい」

「ご両親も待望の後継ぎが戦場にいるのでは心配だろう」

「いえ、自分が志願したことですので、両親にはちゃんと話してありますから」

「確かに、君ほどの腕なら、民間人でいさせるのは惜しいな」

「ありがとうございます」

エレベーターの中に設置されたモニターでは、最近激化するブルーコスモスによるテロ事件について報道されていた。爆発の傷跡も生々しい現場の中継にアナウンサーの声がかぶる。

『昨日のテロ事件の容疑者は未だ捕まっておりません。市民の皆様は十分ご注意ください。不審者を目撃した場合の捜査本部への情報提供はこちら・・・』

画面の下に直通の電話番号・メールアドレスが表示された。画面が切り替わって、最高評議会ビルの外観と、人物の写真が映し出された。

『市民からは、一向に捜査が進まない市当局へ不満の声が上がっています。この事態を憂慮した最高評議会クライン議長は、早急な事件の解決を求め、国防委員会をはじめ、関係機関への働きかけを強めています』

モニターから視線をはずさずにクルーゼが呟く。

「次の任務は決まり…だな」

「そのようですね」

クルーゼの言葉にアデスが頷く。
ミゲルは、その言葉に次の任務を予想する。

「ひょっとして、今度の我々の敵はテロリストですか?」

「そういうことに、これからなるのだよ」

にやりと口元を吊り上げてクルーゼは言い放つ。

「まだ、通達前だ。他言無用にな」

アデスが言い添えた。
その時だった。突然、突き上げるような衝撃と共にエレベーターが止まり、電源が落ちた。

アデスもミゲルも、さすがにコーディネーターだけはある。無様に転んだりはしなかった。
ミゲルは、とっさにエレベーターの壁に手をついて身体を支えた。
壁面に埋め込まれた硬化ガラスが割れることはなかったが、それでもかなりの衝撃だった。
ミゲルが上官二人の無事を確認しようと振り向くと、アデスはクルーゼの背後の壁面に両手をついて、覆い被さるような姿勢のまま、クルーゼの怪我の有無を確認しており、それに答えるクルーゼにいたっては座ったまま、身構えた様子もなく先ほどとほぼ同じ格好だった。さすがに足を組んではいなかったが。

(すげー。艦長って、とっさにそこまでやれるもんなのか!?)

ミゲルは、アデスに尊敬のまなざしを送る。
本来なら一番格下の自分が上官を庇わなければならないなのだが、そんな余裕はなかったというのが正直なところだ。
艦長職にある者が護衛を務めることなどそうあることではない。
職業柄の条件反射というよりも、他人をかばうという行為は、アデス個人の資質だった。

再び、衝撃が来た。先ほどよりも大きくはない。

ミゲルは、冷静になってから内心舌打ちする。

(今の衝撃で仮面が外れる・・・なんてことはないか)

クルーゼの素顔は相変わらず仮面に隠されたままだった。
ミゲルが外へ視線を移すと、弧を描くように下へ続くシャフトのちょうど地上に届く辺りから、黒煙が上がっていた。

「隊長!」

「ああ、二度の衝撃。間違いなく爆発だな」

ミゲルに促されたクルーゼが、すぐに立ち上がって窓に寄った。

「衝撃で、非常停止機能が作動したようです。電力も落ちましたから、一度目の爆発で発電施設がやられたんでしょう。非常電源に切り替われば、管理センターと連絡が取れるのですが」

アデスが、エレベーターの中に備え付けられた外部連絡用の電話を手に取って告げた。
3人とも携帯電話を所持していたが、シャフト内では場所によっては電波が届かないため使用できなかった。

夕闇が近づいてきていた。室内灯の明かりもつかない小さな箱の中では、闇が急速に広がりつつあった。

「シャフトが崩壊するほどの爆発ではなかったようだな。電力さえ戻れば動くだろう」

ミゲルは意外と楽観している上官を意外に思った。
つい先ほどまで、ブルーコスモスのテロについてニュースで取り上げられていただけに、今回の爆発も関連性があると誰もが思うに違いない。そう考えると、あまり楽観視できないと思ったのだが、上官二人はあまり動じていないようだ。
その疑問を口にしたミゲルにアデスが落ち着いた声で説明する。

「テロの目的は、示威行動だ。プラントの施設に壊滅的な打撃を与えるには力不足だ。ブルーコスモスが得意とするのは、専ら要人の暗殺だからな。
我々が、今すぐに脱出しなくてはならないという事態にはならないだろう」

クルーゼもアデスの発言に同意する。

「それよりも本部に出頭する時間に遅れるな。まあ、向こうもこの騒ぎでそれどころではないか」

「…ですね。それにしても、このご時世、誰でも入国できるわけではないのに……入国管理局は何をやっているのか」

「蛇の道は蛇と言うからな。抜け道などいくらでもあるのだろう」

口元に笑みを浮かべ、アデスを振り仰ぐ。

上官二人の会話を聞きながら、ミゲルは自分ひとりで焦っているのが馬鹿馬鹿しく思えてきた。ゆったり構える二人を見習って、エレベーターが動くまでのんびり待つことにした。
そこで、この機会に隊長をゆっくり観察することにした。


細い肢体。

肩につくくらいに伸ばした金髪。

白い手袋。

それがまた、嫌味なく白い制服に合っていて―――。

唯一晒された口元から素顔を想像する。


(この外見で、素顔が駄目駄目ってことはないよな・・・28歳だっけか?)

先日の戦闘で、クルーゼの戦いぶりを間近で見ることができた。
自分のパイロットとしての技量が他人より劣っているとは思わない。だが、正直驚いた。あれだけの動きができる人間にお目にかかったことがなかった。
その驚愕は、嫉妬するとかそういうレベルのものではなかった。ただ、尊敬に値した。そう思っているのは、自分だけではないだろう。

仲間内でクルーゼの素顔当てなどというふざけたゲームを思いついたのも、彼のことをもっと知りたかったからに相違ない。
ただ、憧れとか尊敬といった感情を同僚や他人に悟られるのは、自分としては面白くないので、わざと気のない素振りをしてみたのだ。

だが、思いつきで口にしたゲームに、思っていた以上に乗ってくる連中が多くて驚いた。

(は、みんな同じ穴のムジナかよ)

笑ってしまった。ライバルは多いらしい。
そして―――

(ここにも・・・か?)

ミゲルは目線を黒服の男に投げた。

ここ数日の間だが、二人の様子を傍から見ていた。
アデスもクルーゼの姿や行動には驚いたはずなのだが、なんと言うか、二人の会話には大人の余裕というようなものが感じられた。

(全てを言わなくても、相手の次の行動が分かるっていうか・・・・・・つきあいが長いわけじゃないのにな)

それを悔しく思う辺り、まだまだ自分も若いな、などと18歳の自分が思うのだ。
上官と対等に話がしたいというわけではない。クルーゼの前で萎縮することなく本来の自分を見せたいし、見てもらいたいのだ。
そう思ってミゲルは自嘲する。

(隊長に勝ちたいと思うならまだしも・・・・・・なんだかなー。俺、どうかしてるのか?)

クルーゼに惹かれ始めている。そんな自分をどこかで意識しながら、ミゲルは暗くなっていく外の景色を眺めていた。







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