| 3 仮面の謎 「隊長の仮面の下。気にならないか?」 「ああ、素顔見てみたいよな」 「あの仮面、なんでだろうな」 新しい隊長の噂はすぐに艦内に広まった。 MS戦を見た者たちからは比較的好意的な噂が。そうでない者たちからは、いささか不謹慎な噂が広まった。どうやら半信半疑らしいのは誰にとっても同様だった。 「酷い怪我の痕があるからだって聞いたが」 「え!?俺はどっかの国の御曹司で、素顔を隠しとかなきゃならないって聞いたぞ」 「マジ?どっかで、どこだよ。連合?オーブ?」 「馬鹿、連合のわけがあるかよ」 「はは、そりゃそうだよな」 一方では――― 「素顔を見せないならそれなりの理由を公表すべきだろう?顔も素性もわからん上官の命令を戦場で聞けるか!?」 「だが、腕は確かだ」 「そして、頭も切れる。―――戦場で必要なのは、顔じゃなくて、俺たちが生き残れる可能性がある指揮官につくことだろう?」 「そりゃそうだが・・・」 クルーたちの間では、この数日間、クルーゼ隊長の素顔の件で、どうやら激しい議論が交わされたようだ。ほとんどの者は、自分の信じたい噂を信じ、隊長が素顔を隠す理由を自分なりに見つけたようだった。 そして、一方では、上官の力量だけを評価するという実力主義の者もいたため、艦内の雰囲気としては、まあ好意的に受け入れられたと言っていいだろう。 ミゲル・アイマンもその一人だった。 演習中には、クルーゼと同じ別動隊として地球連合軍の艦艇を撃退した彼は、現在のところヴェサリウスのエースパイロットと言っていいだろう。それだけの力量を持ち得る兵だった。彼のジンは、カスタマイズされており、独自のカラーリングを許されていた。 そのミゲルにとっても現在一番の関心事は自分の隊の指揮官についてだった。 「隊長の素顔――知りたくないか?」 MSパイロットの控室で、パイロットスーツから制服に着替えながらミゲルは同僚のオロールに小声で話し掛けた。 「おい、今度は何をやらかす気だ・・・?」 同じくジンのパイロットであるオロールが、「またこいつは・・・何を言い出すんだか」といったあきれ顔でミゲルを見やる。 「ちょっとな。フロやベッドの中まで仮面てわけじゃないだろうよ」 にやりと笑って目配せするミゲル。 「まさか・・・覗く気か!?」 「覗くだなんて、人聞きの悪い。たまたま、偶然、アクシデントで―――ってことさ」 「おい!下手すると上官侮辱罪だぞ。やめとけって!」 周囲から一目置かれる程度の腕を持ち、常識人の誉れ高いオロールは、また悪友の悪い癖が始まったと嘆いた。ミゲルは、退屈するととんでもないことをやらかすのだ。士官学校の頃から、そのとばっちりを受けてきたオロールは、早々に危険を察知 する。 「ナチュラルは手ごたえねえし、戦闘終わると俺ら暇じゃん?艦内に閉じこもっていると退屈だしなー。酒もタバコも任務中は厳禁だしな」 「あたりまえだ! いいかげん仕事と遊びを切り離せ! いつまでも学生気分でいるな!」 オロールのこの台詞も一体何度目か。 一向に堪えないミゲルは、暇つぶしの標的を見つけて非常に楽しそうに笑う。 これで、戦闘になると真面目に任務を果たすのだから驚きだ。ふざけた発言に誤解されやすいが、今回の戦争の意義や自国の平和についてちゃんと自分の考えを持っているから憎めないのだ。 「なになに?何の話だ?」 つい、声が大きくなってしまい、同じく艦内で暇を持て余す同期の連中が集まってきた。 「だからさ、隊長の素顔のハナシ」 「あーそれね!噂、結構あるよな」 「何?確かめんの?いいね。乗った!」 「マジ?それじゃ―――」 オロールの心配を他所に話はどんどん大きく、さらに具体化していった。オロールは、これから起こるかもしれない騒動のことを思い、深いため息をついた。 ◇ ヴェサリウスのブリッジでは、昨日の戦闘データの解析と本国への報告が終わり、ようやく通常業務に戻ったところだった。 いつの間にか、ブリッジでのクルーゼの席は艦長席の右後方に決まったらしい。 もともと管制官の予備席だったが、使用されていないため空席となっていた。 クルーゼは誰に聞くともなく自然とそこに落ち着いた。すぐ横にブリーフィング用のモニターがあるので、作戦指揮や説明には不自由はない。 そして、指揮する時には、ブリッジ全体を見渡せるようにするためか、艦長席の椅子の背もたれ部分に手を置き、無重力に浮遊する身体を支えるようにして、指示を出すのだ。 アデスにとっては、すぐ後ろに人の気配があるのには慣れておらず、なんとも落ち着かない。まして、戦闘中ともなれば危険も伴う。 この状況に慣れたほうがいいのか、隊長に注意した方がいいのか、アデスは決めかねていた。 「アデス艦長。本国から入電です」 アデスは、通信士官から渡された通達文のメモを一読し、席を立つと斜め後ろの席にいるクルーゼに渡す。 (やはり、出頭命令か・・・) 受け取ったメモを見て、アデスは気が重くなった。悪い予感は当たるのだ。 クルーゼは通達文に目を通し、アデスに返す。 「本部へ報告に行く。艦長、同行してくれ。連合との戦闘報告は任せる。 あと、MS戦について詳しい者を一人同行したいのだが、誰が適任か」 「でしたら、ミゲル・アイマンがよろしいでしょう。現時点での我が隊のエースパイロットです」 「ああ、彼か。私と共に別働隊にいた者だな。わかった。 ミゲル・アイマンも同行する。本部へ通達を」 「は。他の兵は待機ということでよろしいでしょうか」 「すぐに次の任務があるだろうからな。そのまま艦と共に港で待機だ」 「了解しました」 「艦長」 各方面へ通達するべく自席へと踵を返したアデスをクルーゼが呼び止める。 「あとで、私の部屋へ」 「は?はい」 何事かと訝ったが、思えば昨日からの戦闘やその事後処理に追われ、まともに話をしていなかった。かろうじて挨拶だけはしたものの、かなり無作法な挨拶になってしまったことをアデスは思い出した。 |
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