◇ 


地球連合の軍事拠点の一つ、「世界樹」での攻防戦は、激戦を極め、ザフト・連合両軍に甚大なる損害をもたらした。
ザフトは、核分裂抑止能力をもつ「ニュートロンジャマー」を試験投入し、「世界樹」は崩壊した。
戦闘は終盤を迎え、ザフトに有利な状態で世界樹攻防戦は幕を閉じた。

そのころ既にひとつの艦の艦長として戦闘に参加していたアデスは、母艦を失った他の隊のMSや残存部隊の収容にあたっていた。



艦内にアラートが鳴り響き、通信が飛び交う。慌しく指示を出す通信士官。

『ガヌー隊・コリウス隊旗艦撃沈。残存MS数三機。本艦で収容する』

『ガヌー隊のコクトーだ。MS左腕損傷。補給・整備を頼む!』

『識別コードを確認、Bデッキへ!損傷した機体が入ります。整備班はネットの用意!』

『コリウス隊三番機、旗艦をロスト。当機の収容をお願いします!』

『了解。損傷機を優先しますので、そのまま命令があるまで待機願います』

『特務隊所属のラウ・ル・クルーゼだ。母艦が撃沈されたので、補給及び整備について貴艦への着艦を求む』

『了解。特務隊のMS部隊は本艦で収容します』



通信の切れ間を見計らって、通信士官が艦長席を振り返る。

「アデス艦長。これ以上の残存MSの収容はできません」

「各隊へ打電。収容状況の確認を急がせろ。以降のMS収容依頼については他艦へ振り分けろ」

「了解しました」



その通信も戦闘直後にはよくある内容だったので、だれも気に止めなかった。
収容したジンは、その機体だけではなかったし、整備兵にとって仕事は山ほど残っていた。

だから、だれもパイロットのことなど気にも止めていなかったのだ。



騒ぎは、MSへのエネルギー補給が終わり、これまでの戦闘データのバックアップを取っていたときに起こった。

初めはメカニックたちだった。戦闘データの吸い出しとチェックを行っていた整備班の兵士たちが、一様に驚きの声をあげたのだ。

「撃破したMAの数―――37機!? なんかの間違いじゃないのか!?」

「・・・・・・さらに戦艦六隻撃沈だと!?―――おい、このジンのパイロットは!?」

戦闘が終わり、帰艦した数多くのMSの整備に取り掛かっていた格納庫が騒然となった。
驚異的な戦果を上げたジンのパイロットの姿が見えない。どうやら整備について大まかな調整を指示したあと、休息を取るためMSデッキから離れているようだ。
パソコンのモニターに映し出された詳細な戦闘データを覗き込んでいたメカニックたちが息を飲む。

「・・・な・・・・・・んだこの数値は・・・」

「この機体でこんな機動性能を出したのか・・・」

背筋がぞくりとするような感覚。
歴史に残る英雄の出現に立ち会っているかのような気持ちだったと、後にメカニックたちは語っている。
「パイロットは誰だ!? ブリッジに問い合わせろ!」

「艦内放送で呼び出しをかけるんだ。 あ、あと艦長にも報告を!」

整備班長からの指示が飛ぶ。

ちょうどその時ブリッジにいたアデスは、残存部隊をまとめるのに手一杯で、整備班長からの報告に「あとで聞く」と一言伝えただけだった。

アデスが「ラウ・ル・クルーゼ」という名を知ったのは、戦闘終了後の混乱も一段落して、本国への帰還中のことだった。







◇ 


「ラウ・ル・クルーゼ?」


「はい。先ほどの戦闘でMA37機、戦艦6隻を撃墜しています」

「MA37機に戦艦六隻!?・・・・・・すごいな!」

整備班長からの報告を聞きながら、アデスは素直に驚いた。

「この戦果は本国でも高く評価されるでしょう。しかし、不思議なのはこれまで、この人物の名を聞いたことがないんです」

「今回が初陣という新兵ならそう珍しいことでもあるまい」

「いえ、逆にこれほどの能力を持つ新兵なら当然『赤』を着ているはずですし、結構整備班の間では話題に上るはずなんです。機体のテストとかありますから、事前にメカニック仲間の間で噂になる事が多いものです。
しかし・・・・・これだけの人物が話題にも上らず、しかも着用していたのは上級士官用のパイロットスーツとなると・・・・・・」

「なるほどな。それで、本部からの特殊任務に就いている者ではないかと思ったわけか・・・」

「はい。何分、彼の乗っていた艦が撃沈しているので、詳細をどこに問い合わせればいいものかわからなかったのです。
特務隊と名乗っていましたが、確認に時間がかかりそうだったので、その間、彼の機体を何も知らない他の整備兵に触らせない方がよいかと思い、艦長のご判断を仰ごうと思った次第です」

「そうか、わかった。この件は、私に預けてくれ。くれぐれも他言無用にな。
それから、データを見た他の整備兵にもその旨伝えてくれ。彼の乗っていたジンの整備は一旦休止だ。人を近づけさせるな。
これは、あくまでも本国に確認が取れるまでの一時的措置だと思ってくれ」

「は。了解しました」

整備班長が退出した後、アデスは、まず、問題のクルーゼという人物に会い、話を聞いた方が良いと判断した。
艦内放送でクルーゼを艦長室へ出頭させようと、ブリッジを呼び出した、ちょうどそのときだった。
執務机のモニターから電子音が鳴った。

『アデス艦長へ、艦隊司令部より入電』

「!わかった。こちらでとるのでまわしてくれ」

『了解。つなぎます。―――どうぞ』

数秒の沈黙の後、モニターの画面が切り替わった。アデスは、相手の姿を認めて敬礼する。

「艦長のアデスです。ちょうどお伺いしたい事があったところです」

『艦隊司令のケラーだ。アデス艦長、貴艦で収容した特務隊のラウ・ル・クルーゼに本艦への移乗を命令する。
なお、この件についての詮索は控えるよう、本国からの通達だ』

「・・・・・・了解しました」

案の定、といったところか。理由を聞く暇も与えず、用件だけで通信は切れた。
いささか一方的過ぎる命令ではあったが、戦闘終了直後の混乱の最中である。無理な追及は避け、通常業務に専念する事が、アデスにとっては重要なことだった。


こうして、アデスは、結局クルーゼに会うことなく、クルーゼは艦隊司令部の命令のままにこの艦を離れたのだった。

今思えば、何者かの思惑がこの時から働いていたに違いない。
ニュートロンジャマーの試験投入もあったことから、世界樹攻防戦では複数の作戦が同時に進行していたと考えられる。



アデスは、あの時の人物がこういう形で自分と関わることになろうとは夢にも思っていなかった。






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