劉外相との会談を行った屋敷から一度宰相府へ戻ったシュナイゼルは、分刻みのスケジュールを着実にこなしていった。
今日はこの後、会議が一つと、夜には各国大使を招いてのレセプションがある。
移動の最中には、車内で担当武官と正規軍の再編成についての打ち合わせだ。

「殿下、明日の打ち合わせの件ですが、一度、現場をご覧頂いた方がよろしいかと思いますので、会場予定地へご案内したいのですが、いかがでしょう」

「ああ、そうだね。一度、見ておきたいと思っていたところだ。頼むよ」

「承知いたしました。明日、博覧会協議会の会長と共にお迎えに参ります」

秘書官の一人が、明日のスケジュールの確認をして下がると、それと入れ替わるように侍従がやって来て、来客を告げた。

「ダールトンが?」

「はい、青の間でお待ちでございます」

「―――会おう。出発は少し遅らせる」

「かしこまりました」

慇懃に一礼し、出発が遅れることを関係部署に通達するため、侍従が下がった。



青の間は、その名の通り青を基調とした内装で整えられた部屋だった。
五十近い部屋数のある宰相府の部屋の中では、小さい方だったが、それでも小さな演奏会が開けるほどの広さがある。代々の宰相が私的な客と会うための部屋だった。

青の間に入ったシュナイゼルをダールトンが立ち上がって迎えた。
ダールトンは、第二皇女コーネリア麾下の将軍だ。
歴戦の勇者として、また、コーネリアの軍略の師としても名を馳せていた。
過去には、シュナイゼルにも軍略指南をしていたこともある。

「ご無沙汰しております。シュナイゼル殿下」

折り目正しく礼をとったダールトンに、シュナイゼルが微笑む。

「久しぶりだね。エリア9の制圧では、コーネリア軍の活躍があって、随分と早く落ち着いたと聞いている。コーネリアもがんばっているようだ。それも君の尽力があったからこそかな」

「とんでもございません。私の力など微々たるものです。
 エリア9での勝利もコーネリア殿下の的確迅速なご采配によるものです」

「相変わらず……だな」

小さく呟いたシュナイゼルにダールトンが顔を上げる。

「は?」

「いや、何でもない。君の育てたグラストンナイツもよくやってくれている。
 後で会っていくといい。――――さて、用件を聞こうか」

「はい。実は、不確定情報ですが、エリア9の反抗勢力に資金援助をしていたと思われる組織の者から、気になる話を聞きまして、宰相閣下のご判断を仰げればと思った次第です」

「あのエリアの影に第三国の存在があることは、知っているが、相手は国家でなくて組織なのか?」

「ええ。しかもその組織から足抜けした者からの情報提供です」

「一個人…というわけか。組織の追っ手から逃れるために、ブリタニアに庇護を求めたということかな?」

「ご推察の通りですが――――問題は、ブリタニアにではなく、私個人に接触があったことなのです」

「それは、コーネリアも承知の話かい?」

「いえ、私の一存です」

「ほう?」

揶揄するようにシュナイゼルが口角をあげた。
ダールトンが、敬愛するコーネリアに内緒で情報を第二皇子に流すことなど、異例のことだった。シュナイゼルの瞳が剣呑な色を帯びた。

エリア9は、東南アジアにおけるブリタニアの拠点の一つだ。
地の利を生かし、古くから貿易の中継地として栄えてきた一国家で、大陸との関係も深く、歴史を遡れば、数々の王朝がこの地を支配してきた。
今また、新たな支配者がその国を属領として統治することになったのだが、現地での抵抗も激しかった。その背後に大きな国家の存在が浮かび上がってはいたが、表に出てくることはなく、今では、抵抗勢力の潤沢な資金源がどこにあったのかを問題視する声も多かった。

コーネリアが任されていたのは、抵抗勢力の殲滅と、その背後関係を調査することだった。

「いいのかい? 今の君の主は、コーネリアだろうに……」

「姫様にお聞かせする前にぜひ、シュナイゼル殿下にお知らせすべきと考えました。
 ですから、これは小官の独断です」

「つまり――――私に関わることなんだね」

ダールトンは黙って頷く。

「実は、先日のエリア9での掃討作戦の際に――――」

ダールトンの話にシュナイゼルは、怜悧な眼差しを鋭くした。






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