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ロイドは上司であるシュナイゼルに呼び出されて、ブリタニア政庁に臨時に設けられた宰相閣下の執務室を訪れていた。

「婚約したんだって?」

開口一番そう言われてロイドが目を丸くした。

「おや、よくご存じで」

どこから聞いてくるのか知らないが、相変わらず耳が早い。
ロイドが肩をすくめた。

「貴族の婚姻情報は、社交界ではゴシップの次に早く流れる情報だ。中には政治的に配慮が必要な縁組みもあるからね。……で、相手は、アッシュフォード家のご令嬢だとか」

「さすが殿下、地獄耳v」

「君を大切な娘の婿にだなんて、アッシュフォード家も万策尽きたということかな?」

「あっは! そうかもしれませんねえ」

笑いながら手を叩いたロイドは、シュナイゼルの皮肉など全く堪えていないようだ。

「ミレイ・アッシュフォード。……うん、記憶にあるな。マリアンヌ皇妃の離宮で会ったことがある。きれいな娘だったな。さぞ、美しく成長されたことだろう」

「殿下って、幼女趣味でしたっけ?」

失礼なことをケロリと言ったロイドの戯れ言をきれいに無視し、シュナイゼルが続ける。

「まあ、君のことだから、相手の家の事情なんか気にしないのだろうね」

「そんなことありませんよ、十分気にします〜v 特にあの家が所有しているお宝のこととかね」

「お宝?――――第3世代ナイトメア“ガニメデ”か。マリアンヌ皇妃の……」

「閃光のマリアンヌ様ですかv あの方がご存命なら、さぞ優秀なデバイサーに……」

「ロイド」

不謹慎な発言をシュナイゼルが諫めた。
同時にシュナイゼルは、いつでも、どこでもこの調子では、セシル・クルーミーが苦労するわけだ、と改めて彼女への尊敬の念を強めた。

「随分と、気にしますねぇ。かの皇妃様のコト」
ロイドが意味ありげに微笑して、チラリとシュナイゼルの顔色を窺う。

「意外ですね、貴方が皇位継承権争いからほど遠いアリエス宮の御方のことを気になさっていたなんて」

第11皇子であり、第17皇位継承権を持つルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとその妹ナナリーが、母親であるマリアンヌ皇妃と共に暮らしていた離宮。
騎士侯とはいえ、民間出身の皇妃に対して同じ皇族の間からは風当たりが強かったと聞いている。母親の身分の低さからか、皇位継承争いから最も遠いところにいた。

だが、それが、あの惨事を引き起こしたとも言われている。

「強く、美しい方だったからね。あの兄妹たちも可愛かったし」

「ロリコン?」

「無礼者」

「あっは! で、僕に何が仰りたいんですかぁ? で・ん・か」

「アッシュフォード家の令嬢は、ルルーシュの婚約者だったんだよ」

「それで?」

「本人達が知っていたかどうか分からないけれど、アッシュフォード家はそのつもりだった。その目論見は、あの事件のせいで潰えてしまったけれどね」

シュナイゼルが随分と遠回しな言い方をしていることにロイドは気付いた。だが、敢えて、深く聞こうとは思わず、成り行きを見守る。

「君が、どこまで真実を知る覚悟があるのか聞きたい」

「えー、面倒事は嫌なんですけどー」

「アッシュフォード家の娘を娶るとは、そう言う意味だよ。過去を拭い去れるわけがない」

いつになく、真剣な声のシュナイゼルをロイドが意外に思った。

「ガニメデ欲しさに高い代償を払うことになるかもしれない。それを分かっているのかな?」

「それって、脅しですかぁ?」

あくまでも明るく茶化すロイドにシュナイゼルが肩をすくめた。

「まさか。君にそんなことが効くとは思っていないよ。ただ、君が―――落ちぶれたとはいえ、かのアッシュフォード家と縁戚なることを快く思わない者もいるということさ」

「あ〜、僕って端から見たら殿下のお気に入りですからねぇ。もう、いろんな人に睨まれているんで、別に今更気にしませんけど」

「君は気にしなくても、権力争いに夢中の貴族たちは十分気にするんだよ。全く……少しは、自分が社交界でどう思われているのか考えてみなさい」

「変人? 放蕩貴族?」

楽しそうに自分で自分をそう評したロイドにシュナイゼルが苦笑した。

「それは、一般貴族の見解であって、問題は、もう少し頭の良い愚か者の方だ」

「頭のいい愚か者……ねえ?」

「君の爵位は、君にくっついている“おまけ”であって、君自身の評価はその頭だよ」

シュナイゼルの手が、ロイドの髪を梳く。銀色の髪を弄びながら本人に向かってそう告げた。

「そして、その頭脳が生み出す科学技術や兵器は、市場に出れば巨万の富をつくりだす。ナイトメア開発に関わる企業のバックには必ず貴族がいるからね。彼らが資本提供をしている企業がほとんどだ。―――彼らにとって、君は富を生む金のガチョウだよ」

「だから、僕を軍属にしたんでしょ?」

ロイドの目が眼鏡の奥で細くなった。

「民間に持っていかれたら手痛い“損失”だからね」

“損失”という言葉に置き換えたシュナイゼルの真意は、どちらかというと、ロイドの頭脳が民間もしくは、他国に流れたら“危険”という意味でもあった。
ラクシャータに続いてロイドまで敵方に回るようなことになったら、それこそブリタニア軍は大打撃を被るだろう。
強欲な貴族の手から遠ざけるためにロイドを軍属にしたシュナイゼルは、わざわざ、そのために自分の直属となる部署まで創設した。



「ねえ、殿下。さっきから僕を貴方の所有物扱いしてません? すごく不愉快なんですけど」



顔を顰めたロイドが腰に手を当てて、いかにも「憤慨しています」というポーズをする。

子供がやれば可愛らしいポーズだが、大の大人がやってもあまり効果はない。
シュナイゼルは、大きく溜息をついて呟く。




「全く…………私のものになっていれば、今こんな気苦労はしていないよ」




ぼやきにも近いその呟きは、悲しいことにロイドの耳に届かなかった。







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