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やさしさの意味 Side / Ades
1 手紙
私がそれを手渡すと、彼女は泣き崩れた。
彼の最後のディスクメール。
通信管制時の戦地では、私信の長距離通信はできない。家族へ「手紙」を届けるのは、戦地を離れ、本国に帰還する者の務めでもあった。
通常なら軍本部庶務課に預けて終わり。しかし、それが、遺言ともなろうものなら、ましてや戦死通知を伴うものなら、同僚が家族のもとへ届けるのが慣例となっていた。
彼の愛する者へ、彼の最期の姿を伝えるために……。
同じクルーゼ隊に所属する者として、ヴェサリウスの艦長でもある私が、手紙を届けることになったのは当然のことだった。
遺品はなかった。艦とともに爆死したからだ。墓の下に眠る身体すら残らなかった。
クルーゼ隊ローラシア級戦艦ガモフ艦長・ゼルマン。
地球軍第八艦隊と戦闘中に敵旗艦を道連れに爆死。
自分と同じく艦長として、艦の運行・管理、すべてを担う立場にあった。
敵艦への特攻―――彼なりの正義と軍人としてのプライド。
しかし……。
「彼は、我々コーディネーターの正義と未来のために勇敢に戦いました」
形式どおりの言葉は、ゼルマン夫人の耳に届いてはいないだろう。
自分でもこんな言葉でしか、彼の最期を伝えてやれないことが悔しかった。
この戦争で、優秀な人材が次々と死んでいく。
まだ10代の若者たちまで、死に急ぐかのように戦地に駆り立てられていった。
ザフトは、市民軍だ。
もちろん、私のように軍隊組織として「軍人」という職業に就いているものもいるが、平時には、普通の仕事に就いている民間人が多い。もちろん、ナチュラルのような民間人と違い、男子は、10代から年1回、2〜3週間の兵役につき、訓練に参加することが義務付けられていた。
学生でもスポーツ選手でも教師でもパン屋でも、原則として例外はない。
戦闘への参加は本人の意思によって決定されるのだ。「赤紙徴兵」というわけではない。
だからこそ「自分たちが国を、家族を守っている」という意識が強く、戦争になれば士気が高いことでも知られていた。今度の戦争で、若者の志願兵が多かったのもそうした精神的基盤が確立していたからだ。
我がクルーゼ隊にも最年少とも言える兵がいる。
それぞれ、プラント最高評議会の委員を親に持つエリート集団だ。
親の七光りかと揶揄する者もいるかもしれないが、そうでないことは、共に戦ったことのある者なら分かるはずだ。
彼らが、伊達に赤い軍服を着ているわけではないということを。
ヘリオポリスで地球軍から奪取した機体。あれを難なく乗りこなした。
地球軍のMAなど敵の数に入らないだろう。
彼らだけではない。我が軍のMSパイロットは、総じて若く有能だ。
故人を貶めるつもりはないが、あの激戦で、艦の機能が半分以下になっていたとしても、あの時、あの状況で、艦と乗組員を犠牲にしてまで敵旗艦を落とす必要があったのか……私にはゼルマンの判断が納得できなかった。
軍人としてのプライドゆえの行動…といえばそれまでだが、プライドと命を秤にかける事などできない。
するべきではない。
あのとき、隊長は制止しなかった。
ゼルマンの覚悟を感じ取ったからだろうが…。
あれからずっと私は苛立っている。
誰も彼もが死に急ぐ―――「命を賭して」それを勇敢とは私は思わない。
確かにゼルマンのガモフも私のヴェサリウスも戦艦だ。
戦うための「艦(ふね)」だ。
だが、戦場では、戦って疲れ傷ついた兵たちの還る場所でもある。
艦長の役目とは、敵を倒すことが第一なのか、艦を守ることが第一なのか……分からなくなる。
(いずれ我が身か…)
泣き崩れるゼルマン夫人の姿が、妻と重なった。
夫人の肩にそっと手を置き、慰めの言葉を口にしながら、私は顔を歪めて涙を堪えた。
ゼルマン夫人宅を辞した私は、軍本部へ報告に戻るため、待たせておいた車に向かった。
部下に運転を任せて後部座席に身を沈める。
(こんな迷いをあの人に言ったら、一笑に付されそうだ)
敵を倒すためなら手段を選ばないと評される我が隊の隊長…ラウ・ル・クルーゼ。
白い軍服に身を包み、素顔を仮面で隠した彼の言葉は、いつも物事の核心を突いていて、私の甘さを断ち切る。
戦術的には正論を進言してみても、彼の軍略家としての才能は私の及ぶところではない。
同じ軍人として、男として、それを悔しく思わないあたり、私はあの人の才能に惚れ込んでいるらしい。
しかし、時として非情なまでの判断に抗いたくなる自分がいた。
軍本部に戻ると、私宛の国防委員会発令の任務通達と、隊長からの私信が通信兵から申し渡された。
通達によると、2週間の休暇の後、ヴェサリウスは地球へ向うことになった。
地球降下部隊を送るためだ。
クルーゼ隊長以下、アスラン・ザラ、ニコル・アマルフィほかMS部隊を無事に地球へ降ろさなければならない。
当然の如く、私は、艦に残ることになる。
いつ戦闘になるか分からないが、とりあえず、私は、彼らの還る艦(ばしょ)を「守る」ことにした。
久しぶりの休暇ももらえたし、自分の中で、今度の任務についてのスタンスが決まったので、気分が少し浮上した。
早速、「今夜帰る」と妻に連絡しようと携帯電話を取り出した。
◇ ◇ ◇
軍本部、国防委員長の執務室。
薄闇に浮かび上がる金髪とザフト軍の白い軍服。
「そんなに締め付けるな」
男の低い声と椅子のきしむ音が室内に響く。
「…くッ………ン」
クルーゼの口から喘ぎにも似た苦鳴が漏れる。
「声が外に聞こえる心配は要らない」
帰還報告と戦況報告に訪れた国防委員長の執務室で、クルーゼは性急に求められた。
執務時間外なので、もはや他の来客もない。上司が帰るまで帰宅できない秘書官が前室で残業中。護衛官は扉の前で部屋の主が出てくるのを待っていた。
秘書官は、先程、委員長から退庁予定時間が1時間ほど遅くなると告げられ、運転手にもその旨連絡をする。
今日は夜から雨の予報のため、車を正面玄関でなく車寄せの屋根が長い南玄関へまわすよう通知するのも忘れない。手際よく秘書事務をこなす様子から、帰り際の急な来客は珍しくないらしい。
この部屋の主、プラント最高評議会国防委員長パトリック・ザラは、執務机に向かい椅子に腰掛けたまま。クルーゼは、ザラの膝に乗るような形で後ろから貫かれていた。
軍服の上着は身に着けたままだ。ザラの足元には、クルーゼのブーツと軍服のズボンが転がっている。
机の上には、はずされた仮面が鈍い光を放っていた。
ザラが、腰を揺するとクルーゼの唇から甘い吐息が洩れた。
その声をもっと引き出そうと、ザラの手がクルーゼのものを愛撫する。
クルーゼ自身の吐き出した液体でぬるつく手を緩急をつけて動かす。
「ふ………あっ…ンンッ」
ザラを締め付けるクルーゼの内壁が濡れた音をたてるように蠢く。
ザラは満足げに唇を歪めると、自身を解き放った。
クルーゼは、快感に顔を仰のかせて、ザラの肩に頭を預けていた。ザラの長刀はクルーゼの鞘に収まったままだ。
クルーゼの呼気は激しく乱れ、鞘は時折、痙攣するかのようにザラを締め付ける。
それが、受け入れる男をいっそう喜ばせることになった。
「君は…何度抱いても飽きないな」
既に一度達したザラの昂ぶりがまた力を取り戻す。
急に大きくなったザラを身体の奥に感じながら、クルーゼは、快感を追うことだけに集中する。
自分の身体を道具として使うことに躊躇いはない。迷いはとうの昔に棄てた。
自分の目的を達成させるために必要だと判断すれば、どんな痴態・媚態を晒すことも厭わなかった。
声を上げろというなら、はしたなく喘ぐこともしよう。
(せいぜい、悦ばせてやるさ)
「閣下…ッ、もう……」
誘うように、懇願するかのように濡れた声で訴えた。
「クルーゼ…ッ」
ザラの短い吐息とともに吐き出された精を体内で受け止めて、クルーゼが口の端で嘲う。
―――獲物は、罠に落ちた。
★illust
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