デスの握りしめた拳にそっとラウの指が触れた。
歯を食いしばって、きつく目を閉じ俯いた男の拳に手を重ね、ラウは言った。

「お前にしか頼めないんだ……」

「あなたはっ……ひどい人だ」

苦しげに吐き出されたアデスの言葉にラウは切なげに微笑した。

「すまない」

「私が…断れないことを知っていて……」

まるで遺言のような言葉を黙って聞けというのだろうか。
アデスの頭の中は、どうしようもなくやるせない気持ちで混乱している。
こんなことを言いたいわけではないのに、溢れ出した感情が口から流れ出てしまう。

分かっていた。
彼と肩を並べて戦ったり、抱きしめたり、口づけたり、ぬくもりを分かち合って眠ったりする日々が永遠には続かないことは。
 
分かっていた。
彼の言動の端々に『終わり』を予感した人間の覚悟が潜んでいることは。

分かっていたのに、何もできなかった。
それが大きな後悔となって今、アデスに押し寄せていた。

「そうだ。最後まで計算高く、利己的な私は、最後まで優しいお前を利用するのだよ」

まるで睦言を囁くようにアデスの耳元で囁かれたラウの言葉。

「……ひどい……人だ」
 

アデスの頬を伝った一滴の悲しみをラウは唇で吸い取り、深く慈愛に満ちた眼差しで微笑した。