++おまけのビリー坊ちゃん++


「君、ビリー・カタギリ技術顧問の所在はわかるか?」

グラハムが通りかかった下士官に声を掛けた。

「ここ連日、どこかへお出かけになっておられるようですが……行き先までは存じ上げません」

「そうか。ああ、すまなかったな」

「いえ、お役に立てなくて申し訳ありません」

カタギリが、グラハムにも行き先を告げずにいなくなるのは、今日で十日目だ。
タリビア海域上空でガンダムと交戦した直後からだ。

連日、遅くまでカスタムフラッグの調整をして、その後、どこかへ出かけている。帰ってくるのはいつも朝方だ。あれでは、まるで睡眠を取れてはいないはずだ。あのままでは、いつか倒れるに違いない。
グラハムは、一言忠告しようと思っていたのだが、肝心のカタギリと二人きりになる機会がなかなかなく、苛立っていた。







一方、グラハムの探し人はKIC社の技術研究所・別館―――といえば聞こえはいいが、ガラクタのような機材が積み上がっている小さな工場にいた。
馴染みの技術者のところで、対Gシステムの最後の調整を手伝っていたからだ。そして、できあがったら真っ先に1基をフラッグ改に搭載させてもらう約束になっていた。もちろん、父であるKIC社の会長には内密でだ。

「ボスには内緒ですよ、ビリーぼっちゃん」

「もう、ぼっちゃんはよしてくれよ。三十路近くの男にそれはないだろう?」

昔から、工房に出入りしていたカタギリは、現場の技術者達にずいぶん可愛がってもらっていた。多忙な父親に代わり、彼らが父代わりのようなものだった。
カタギリが父の後を継ぐ経営よりも、現場を選んだのはそのせいだろう。この別館は、カタギリにとっては、遊び場のような場所だった。

「それよりも後、どのくらいでできそう?」

「うーん、そうさね、微調整とテストも入れて半月かねぇ。テスト次第で、調整に時間がかかるかもしれんしなぁ」

「あと1週間でなんとかならない?」

「ぼっちゃん、それは無理ですって! ただでさえ、上に俺ら睨まれていますから」

「僕も手伝うから」

「えっ……そりゃあ、ありがてぇが、ぼっちゃんは今軍にいるでしょう? あっちの仕事はどうするんでさ? ほら、あのガンダムって機体がらみの調査隊にいなさるんでしょ」

「もちろん、終わってからこっちへ通うよ」

「けどなぁ……」

「頼むよ。どうしてもあのガンダムに追いつきたいんだ! そのためにもこの対Gシステムが必要なんだ!」

「お願いします!」と頭を下げたカタギリに、工場長は腕を組んでしばらく考えた後、カタギリの肩を叩く。

「わかりました。やってみましょう。他ならぬ坊ちゃんの頼みだ! いいな野郎ども!」

機材に隠れて聞き耳を立てていた工員たちが一斉に立ち上がって「おう!」と拳を振り上げた。

「ボブ、ありがとう!」

「いいってことですぜ。久々に燃えてきましたぜ!」

カタギリが、油染みに黒くなって、節くれ立ったボブの手を固く握った。互いに信頼に満ちた眼差しを交わす。さっそく、作業に取りかかろうとしたカタギリをボブが呼び止めて、耳元で囁く。

「それよりも、ぼっちゃん……最近は、そういう頭が流行ってるんですかい?」



それには苦笑するしかなかったカタギリだった。






おしまい





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