++お買いもの++



「今、上がりかい? お疲れさま」

ユニオンMSWAD本部内、MS格納庫から研究棟へと続く廊下で、フラッグの演習を終えたグラハムにビリーが声を掛けた。

「ああ、そういうお前こそ。―――出張だったのか?」

白衣姿ではないビリーの服装を見て、グラハムはようやく気付いた。そういえば、今日は丸一日顔を見ていなかったことを思い出した。

「月イチの本社報告の日だからね」

二人並んで廊下を歩きながら、今日一日の情報交換を始めた。時折、すれ違う下士官が二人に敬礼する。技術顧問であるビリーにはMSWAD本部内に研究用の一室が与えられており、二人は彼らに敬礼を返しつつ話を続け、その部屋へ向かう。

「明日、休暇だって?」

「ああ、久しぶりに買い物にでも行こうかと思ってる」

「へえ、何買うんだい?」

「スーツ。今度、視察があるんだが、冬用のがくたびれてきたから買い替えようと思ってな。それに、軍服ばかりだと飽きるから」

「………それ、軍人の台詞じゃないねえ。付き合おうか?」

「いや、いい」

「なんで? 君に似合いそうなの、僕が見立ててあげるよ」

「いらん! お前の趣味に合わせられてたまるか」

「ひどいな。みんなと同じお決まりのスタイルでどうするんだい!? もっと、個性を出さなくちゃ」

「TPOを弁えた個性なら許せるけどな。お前、いくら軍への出向だといっても、一応軍属扱いなんだから我が軍の恥になるような恰好するなよ」

「そう? 似合わないかい?」

首を傾げて自分の服装を見直したビリーに、グラハムは黙り込んだ。

白いスーツはまあ許そう。問題は、どうして、スーツの上着の丈をそこまで詰めてしまうのかということだ。
似合わないわけではない。確かに別の人間が着たら滑稽だが、なぜかビリーには似合っている。

(だからといって、真似しようとは絶対、思わないがな!)

髪型もそうだが、この奇抜なデザインのスーツを着てMSWAD本部内を彷徨いていても、誰も文句を言わないのは、ビリーがフラッグの開発者であり、かつ技術顧問として軍が派遣を要請した優秀な技術者だからだ。つまり、軍の中でも一目置かれた人物なのだ。
野放し状態のビリーの趣味にグラハム以外誰も意見できないのは、そういう理由なのだ。
それを認めるのは癪だったが、ふと、グラハムはあることを思いついた。

「……そうだ、一緒に来てもいいぞ」

「え、ようやく君も洒落心がわかるようになったのかい!」

「いや、私が、お前に、まともな社会人としての正しいスーツというのを選んでやろう」

満面の笑みでビリーに向き合い、相手を逃すまいとネクタイを掴んだ。

「えー……それは嫌だなぁ」

「文句を言うな。明日、空けておけよ」

ビシッと人差し指を目の前に突き立てられて、ビリーが「えー」と情けない声を出しながら眉を下げた。





END





技術顧問という肩書きについて。

指定された制服のような服装をしなくてもよさそうなので、正規軍人ではないことは確か。
たぶん、カタギリはフラッグの開発をした企業から出向して、軍属扱いになってるのではないかと。肩書きが「技術顧問」だしね。と、なると扱いは尉官クラスではなく佐官クラスと同等くらいかな。
下手すると、グラハムより待遇は上かも(笑)。



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