夏期休暇・後編 【SAMPLE】 2




食事も済んで、日本酒でほろ酔い気分になった二人は、布団を敷いてもらった後も縁側で飲み続けた。
ガラス製の酒器に入った冷酒は女将の心遣いで用意されたものだ。泥棒退治のお礼も兼ねてということだから、ありがたく頂戴することにした。

「美味いな」

「ワインも合うけど、やはり和食には日本酒だよね」

二人で杯を傾けながら竹林の向こうの月を眺めた。MSのエンジン音も基地内の喧噪もここでは縁遠いものだ。

「静かだな」

「……そうだね」

竹林の間を風が渡り、葉が揺れる。庭園の岩の間を水が流れる音、虫の声。決して無音ではないが、自然が奏でる音の中、静かな時間がそこにはあった。

「やっと休暇らしくなったじゃないか」

「あはは、スリリングなイベントがいっぱいあったけどね」

「ワーカホリックの君が退屈はしなかっただろう?」

カタギリの濡れていた長い髪はもうすっかり乾いており、さらりと髪が肩を滑るのを見てグラハムが戯れに指を絡め弄ぶ。

「確かに退屈どころじゃなかったよ。誰かさんは丸腰で刀を持った泥棒相手に大立ち回りを演じるし、毛虫は落ちてくるし、墓参りのはずが海兵隊のシゴキのようだったしね」

「あの悲鳴は、皆に聞かせてやりたかったな」

グラハムが、喉の奥でおかしそうに笑う。からかうような視線にカタギリが拗ねて口をとがらせた。

「そんなことをしたら、フラッグのコクピットに毛虫を入れてやる!」

カタギリはそう言って勢いよく杯を干した。

「まあ、自棄になるな。飲め飲め」

グラハムは笑いながら上機嫌でカタギリの肩を抱いて相手の杯に酒をついだのだが、酔っていたせいで勢いよく注ぎすぎた。

「うわ、つめた……!」

杯から酒が溢れた。零れた酒が手首を伝わり、浴衣の袖と膝の辺りを濡らす。

「あ〜あ、もったいない」

まるでカタギリの方が悪いように言うので、呆れた。

「もう! 飲み過ぎなんじゃないの!?」

グラハムは無言でカタギリの腕を掴み身を屈めた。何をするのかと思ったら、カタギリの濡れた手首に舌を這わし、零れた酒を舐め取っていく。

「ちょっ…グラハム、くすぐったいよ」

手の平や指先まで丁寧に舐められ、手首の内側を吸い上げられて、背筋にゾクリと熱い痺れが走る。

「グラハム……ッ」

逃れようと腕を捩ったが、グラハムは、カタギリの腕をきつく掴んだまま指の股を舌先で舐める。

「ん……」

カタギリの口から洩れた声に、グラハムはニヤリと口元を歪め上目遣いで顔を見やった。まんまとしてやったぞという様子の得意気なグラハムの顔にカタギリは白旗を揚げた。熱い咥内に包まれた指を蠢かし、指先で歯を撫で、舌に触れる。

「美味いな」

「……お酒が? それとも僕の指が?」

「両方だ」

囁く言葉は睦言のような隠微な熱を帯びていた。
身体の熱が上がっていく気がするのはアルコールのせいなのか、それとも引き出された官能のせいなのか。
グラハムは掴んでいた腕を離し、長い髪を一房掬い上げ口づけた。まるで姫君に許しを請う騎士の口づけのような、気障な仕草にカタギリがどきりとする。

「続きがしたい?」

「それを君が聞くのかい? それは僕の台詞だよ」

膝の上に手を置き、身体を預けるようにしてカタギリの首筋に軽く口づけた。グラハムは、相手を煽るだけ煽って身体を離し、カタギリの顔を真正面から見つめた。鼻の頭が触れ合う寸前で止め、なかなか唇にキスをしようとしない。グラハムは、カタギリの眼鏡を外そうと指を伸ばす。

「素直に言いたまえ」

熱い吐息を頬に感じながら、何と答えようかとカタギリは少し迷った。主導権をグラハムに握られて我慢できなくなるまで、この調子で焦らされるのは御免だ。
ふいに乱れた浴衣の襟元と裾が目に付いた。カタギリの眼鏡に手を掛けたままのグラハムの手をやんわりと捕らえる。袖の隙間から手を差し入れ柔らかな肘の内側から二の腕の奥に指を滑らせた。

「んっ……」

敏感に反応を返すグラハムの浴衣を少しずつ乱していく。浴衣の構造上、手を忍ばせる隙間は山ほどあるから、悪戯し放題だ。そのまま手の平で胸をまさぐる。

「ずるい……ぞ!」

「僕は触っているだけだよ」

意地悪く囁いて、鎖骨を撫で胸の突起を引っ掻いたり、摘んだりしてこね回す。グラハムが鼻から抜けるような声を出して堪えようとしたが、我慢弱い身体は口よりも余程素直に反応してしまう。

「あ、カタギリ…ッ」

結局、自分から口づけを強請るような形でカタギリの唇に噛みつくようにキスをした。舌を絡め合い、相手の官能を引きずり出すような深い口づけにお互いに息が上がっていく。
グラハムは唇を離すと、今度はカタギリの浴衣の裾を割り股間に顔を埋めた。下着の上からカタギリの熱を手で掴み舌先で愛撫を始めてしまう。

「ちょっと、グラハム……こんなところで」

「嫌なら布団の上へ行こうか?」

「嫌じゃないけど、さすがに縁側では……」

しっかりと反応しながらも躊躇いがちな言葉にグラハムが肩をすくめた。

「君は本当に深窓の姫君のようだな」

「その姫君の上で気持ちよさそうに腰を踊らせる金髪の王子様を僕は知ってるよ」

「姫がお望みとあらば、そうしよう」

カタギリの反撃をものともせず、グラハムは手を取って恭しく甲に口づけた。







「夏期休暇・後編」に続く

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