++雨の光景++


「あ…………」

カタギリは、ふいに胸を衝かれたように廊下の真ん中で立ち止まった。

霧雨で煙るように見える窓の向こうにグラハムが立ち尽くしていた。
僅かに空を仰ぐようにして顔全面で霧のような滴を受け止めている。
彼の視線の向こうには、離陸したばかりの機影があった。MSWAD本部では、もはや前線から退いた旧型のMSで、今では、訓練機として、士官学校や訓練校に配備されているぐらいだ。

カタギリは僅かに眉を寄せた。

(やだな……この光景……あの時のことを思い出す)

記憶の中の光景と、今のグラハムの姿がだぶる。

降りしきる雨の中、ユニオンの青い軍服が濡れて……ただ、そこに立ち尽くし、何時間もそこにいた彼の姿を思い出す。

じっと仲間の墓標を見つめながら――――。


あの後、カタギリがグラハムの冷え切った身体と凍えた心を溶かすまでに、どれだけの時間がかかったことか。

グラハムの日常は、常に死と隣り合わせだ。
だが、お互いに同じ目標に向かって何かに打ち込んでいる時、それを忘れがちになってしまう。

自分は、彼なら大丈夫―――と、思い込んでいやしないだろうか。
根拠のない信頼を彼に押しつけていないだろうか。

一つの任務が終わり、祭りのような熱狂が過ぎてふと、我に返る時、急にどうしようもない不安を感じることがある。
それをグラハムの前で言葉に表すことは出来ないけれど、胸の内に、何かが少しずつ澱のように降り積もっていくのを感じるのだ。

そして、もの言いたげなカタギリの視線を感じて、彼が振り返るたびに、「何でもないよ」と口癖のように言う。まるで、自分自身に言い聞かせるかのように……。


雨に打たれ窓の向こうに佇むグラハムが視線を感じたのか、急に振り返った。
視線の主を捜し、相手がカタギリだと知ると、子供が親を見つけた時のように笑った。

(ああ……そうだ、君はいつもそうやって笑うんだ……)

カタギリは、軽く手を挙げてグラハムに応えながら、彼の屈託のないその笑顔で、この不安が消えてしまえばいいのにと思った。熱から冷めた頭には、その笑顔は眩しすぎるのだ。己の心の中にできた不安の影を濃くするからだろうか。

(熱に浮かされ続ければ、こんなことを考えなくて済むのかも知れない……)

自分の心の闇から目を逸らそうとすればするほど、闇の中に落ちていく気がした。






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