KYmogemoge(ゆっちさま) & one-color(真夜さま) & どにの部屋(どに)  presents





〜白い病室〜  R16






白い壁、白いシーツ、全てが白く滅菌された空間。

消毒薬のにおいと、静けさの中に潜む苦悶。
人々の明るい笑顔に隠された、密やかな絶望。
それらを覆い遠ざけるために塗り固められた白さなのか――。

外来患者を受け入れる病院ならではの昼間の喧噪。
静かなはず特別病棟にも人々のざわめきが遠く聞こえてきている。

ラウは、病室の窓から空を眺めていた。
開け放たれた窓枠に青く澄み切った空が切り取られ、一枚の画布のような趣だ。
だが、その空でさえも、プラントでは作り物だ。

熱に潤む瞳に青い空に流れる白い雲が映る。
それを飽きもせず眺めているラウは、ただ漫然とそこに在るものを見ているだけに過ぎなかった。
ベッドに仰向けに横たわったまま、首だけを窓の方に向けていたが、疲れたように息を吐くと目を閉じた。

微かな風に金髪が揺らぎ、頬をなぶる。
窓の下の中庭からは、遊ぶ子供の笑い声だろうか、鈴が転がるような軽やかな笑い声と、小鳥のさえずりが聞こえてくる。

ザフトの軍病院ではあるが、一般市民の外来患者も受け入れているため、日中は人の往来が絶えない。
任務中の事故で肩に怪我を負ったラウが入院したのは軍病院で、その身分から特別の配慮がなされ、今は護衛付きの特別室にいた。
自分の隊は、隊長抜きでも有能が副官兼艦長がいるから通常の任務に支障が出るようなことはなかったが、ひとり横たわっていると、いろいろなことを考えすぎてしまうので早く隊に戻りたかった。
だが、傷が塞がってからも発熱が収まらないラウは、担当医から入院の延長を申し渡されていた。

その担当医の回診まで少し時間があった。

寝返りを打つのに少し苦労したが、傷はほとんど痛まない。
ただ、熱のためか身体がだるく、頭がぼうっとしている。

枕元に置かれた花瓶には、白い百合が生けられていた。
見舞いの花としては不適切な花だったが、百合特有の強い香りは品種改良によりほとんど香らない。
気づいた時にはそこにあった花は、おそらくおせっかいな担当医が置いていったものだろう。
ただ、ラウには白い百合が似合うというだけの理由で、病室にタブーとされる白い百合を置いていく酔狂な男だ。

知り合いという者がほとんどいないラウを見舞いに来る者などなく、ただ、自分の身元引受人を自称する国防委員長が一度顔を見せにきただけだ。尤もザフトの英雄ラウ・ル・クルーゼ隊長の入院は極秘にされているらしく、知る者はごく限られているらしい。

穏やかな微風が火照った肌に心地よかった。
青い空は先ほどと何も変わらない。

眠りたくて目を閉じていたわけではなかったが、いつのまにか微睡んでいたラウは、ふと、傍に人の気配を感じ目を開けた。

「あ、起こしてしまいましたか。すみません」

開けたまま眠ってしまったのだろう、窓を閉めようと窓側に立った男の大きな影がラウの上に落ちていた。
黒いザフトの制服の男がラウに向かって微笑んでいた。

「アデス……?どうしたんだ、艦は!?隊は?」

がばっと身体を起こして、矢継ぎ早に問うラウの姿にアデスが苦笑する。
入院していても常に前線のことが気になるのは、ラウらしいといえばそうかもしれない。

「休暇になりました。あなたのいない隊では大したことはできませんから」

着替えもせず、艦を降りて病院に直行したのだろう、黒い制服姿のままのアデスは静かに窓を閉めると、上官を宥めるように穏やかな声で答えた。

「身体を冷やさない方がいいですよ」

そう言って、手のひらでラウの頬に触れる。
思っていたよりも高い体温にアデスがわずかに眉を寄せた。

ラウは内心、いざとなれば自分よりも適切に部隊を動かすことができる男の謙遜した物言いに苦笑した。
だが、同時に気を遣わせまいとするアデスの配慮がどこかくすぐったかった。

「すまんな、長引いてしまって………」

「熱………下がらないそうですが、どこか苦しいところはありませんか」

心配そうな顔のアデスにラウが苦笑する。

「相変わらず―――心配性だな、お前は」

大丈夫だとでも言うかのようにラウが手を伸ばすと、アデスが誘われるようにベッド上に身をかがめる。
そのままラウの手が男の頬に触れると、自然と唇が重なった。

「ン……」

触れ合うだけの軽い口づけにアデスが困ったように唇を離す。

「隊長………」

「また、しばらく会えなくなるから……な」

そう言ってラウが寂しげに微笑む。せめてキスだけは………と思ったのだろう。
だが、男にとってはもっと切実な問題となっていた。

アデスは、しばらく会っていなかっただけで、こんなにもラウに飢えていた自分に驚く。軍人だから自制はきく方だと思っていたが、こうも簡単にその気になってしまった自分に呆れた。
しかも相手は病人だ、これ以上のことをしようとすればラウの身体に負担がかかるのは目に見えていた。

だが、一度火がついた身体は治まるわけがなく―――。

「隊長―――すみません」

そう言い置いてから荒々しく唇を奪う。
何かに飢えているような激しい口づけにラウが戸惑う。

「アデスっ!どう……」

途切れた言葉に濡れた音が重なる。ベッドのきしむ音とともに男の膝がベッドの上に乗り上げ、ラウを押し倒した。白いシーツにラウの身体をつなぎ止め、舌を絡ませ、口腔内をまさぐる。

「ンンッ!」

相手の熱情を誘い出すような深い口づけの意味するところにラウが焦り始めた。
と、同時にアデスの手が寝間着の裾を割り太股に這わされる。
背中で二カ所結ばれただけの簡単な患者用の長衣は、容易く男の侵入を許した。
まさぐる手の動きが太股の内側から更に奥へと伸びて、ラウはぞくりと背筋を這い上がる感覚に身を震わせた。

「やめ………っ」

拒絶の言葉は相手に届かないようで、男の唇で抗う声は塞がれた。

病室の外には、常に護衛の男が配されている。
アデス自身、ここに入るのに身分証と理由を提示し、許可を受けたのだからすぐ外に人がいることを知っているはずだった。

「馬鹿っ!………人が……あ、……んん!」

アデスを止めようと弱々しく振り上げられた手を難なく押さえ、ラウの抵抗を封じ込めた。
アデスがラウの首元に顔を埋め、白い喉元を唇で愛撫する。

「……ですから、少し………静かになさっていてください」

「お前っ!?」

耳元で囁かれた言葉に「信じられない」といったように目を見開いたラウは、普段の堅物とも言われるほど実直な男の豹変ぶりにただ驚いていた。

だが、抗う言葉とは反対に、高められた身体は男の愛撫に応え始めていた。
男の手がラウの中心を捉えると、緩やかに動かす。

「くっ……!」

「………聞こえてしまいますよ?」

「いいんですか?」と意地悪く囁いて、アデスは洩れ出した先走りの液で濡れたラウ自身を更に緩急をつけて追い上げた。

息を呑んだラウが、どうしようもなく洩れる声に戸惑い、堪えようと自身の手で口を覆う。
堪えようとすればするほど、身体は反応してしまうようだ。

「ン………ァ……ン」

くぐもった声が絶頂を伝え、男の手のひらを熱い迸りで汚した。





身体の力が抜けたラウはただ荒く呼吸を続ける。

「ハァ……ハァ……」

真っ白なシーツに広がる金色の髪。
濡れた唇。
熱に浮かされたように潤む瞳。
薄く開かれた唇から洩れる熱い吐息。

そのどれもが、アデスには誘っているように見えた。「もっと………」とねだられているよう見えてしまうのだ。自分が、非道いことをしている自覚はあったが、もう止められそうもなかった。
心の中で詫びながら、無理矢理絶頂へ追い上げられ呆然としていたラウを宥めるようにアデスが口づける。

ベッドの上で仰向けになったラウの片足を曲げさせ、足を開かせた。
先ほど吐き出されたラウの精液を潤滑油代わりに使う。蕾に塗り込めるように指先を表面で遊ばせると、ラウが焦らされたかのように腰を揺する。

その仕草に満足そうに唇を舌で湿らせ、アデスは奥へ指を突き挿れた。
ラウの身体がビクリと震えた。

濡れた音を立てて男の指が蕾をほぐし始めた。
洩れた苦鳴にラウの顔を見ると、苦しげに眉を顰めている。
だが、もはや拒絶の言葉はなく、ただひたすら痛みの中に悦びを見いだそうとしているかのように、熱い吐息を繰り返していた。

指を増やし拡げようと時折、指の間接を曲げると、ラウの身体がびくりと揺れる。

「……アデスッ……も…う、……焦らすなっ……」

途切れ途切れの哀願に、アデスが指を引き抜き、ラウの負担を減らそうと枕を腰の下に差し入れる。
アデス自身もすでに限界だった。
足を抱え上げるようにして外気に晒した蕾に自身をあてがうと、ぐちゅりと音をたててラウの中に侵入を果たした。

短く息を呑むように喉の奥で声を堪えたラウの姿は、逆にアデスを煽る結果となった。
もっといろいろな表情を見たくて腰を突き動かす。
堪えたラウの悲鳴の代わりとでもいうかのようにベッドがギシギシと軋んだ音をたてた。
その度に揺れるラウの身体とアデスの繋がった部分からは粘着質な音が絶え間なく室内に響く。 

「ふ………んんっ………」

身体の奥から生まれる快感に正直に声を出せれば、少しは楽になるのだが、人の気配が気になってそんなことはできそうもない。
この病室の外では、人々が日常の活動をしているし、子供たちが中庭で遊んでいる声もする。そんな明るくて穏やかな環境の中で、ただ愛欲にふけっている自分たちという存在が無性に気になった。逆にいつもと違う雰囲気に身体が敏感に反応していると言ってもいい。

声を堪えようと必死になったラウだが、奥を貫くアデスの剛直に翻弄されて、苦しいのか気持ちがいいのか分からなくなってしまった。
ラウの目尻にうっすらと滲んだ涙に、急にアデスの罪悪感がよみがえる。
涙を唇でぬぐい、あやすように身体を抱き起こした。
だが、体位が変わったことでより深くアデスの雄を飲み込むことになったラウは悲鳴を上げた。
とっさにアデスの大きな手がラウの口を塞ぐ。

互いに向かい合って座ったまま深く繋がり、抱き合う。
すがるところを求めてラウの白い手が軍服姿のアデスの背を掴む。
快楽に耐えようとすればするほど、制服をきつく握りしめることになった。
ラウの背に手を回したアデスが、邪魔になった寝間着を脱がそうと、背中の紐をほどく。
するりと引くだけで簡単に寝間着が脱がされ、白い肌が現れた。
上気した肌は、ほんのりとピンク色に染まっていたが、右肩にだけは白い包帯が巻かれ、アデスの目に痛々しく映った。

「……痛みますか?」

「な……にがっ!?」

どこの痛みのことを聞いているのだと、言わんばかりに荒い息の中で答えるラウは、そんなことより早く終わらせろと、意趣返しのようにアデスの耳に噛みついた。
耳朶に感じた甘い痛みと、自身を締め付ける熱い内壁にアデスの雄が更に剛直を増す。
ラウの唇からは悦楽の喘ぎが聞こえ、アデスは腰を揺すった。

「あっ……あっ……あっ……ああっ……あっ」

断続的に洩れる小さな喘ぎにラウの悦いところを責めているとアデスは知った。

二人分の重みを受けて、ラウの喘ぎと同じリズムでベッドがきしむ。
もう少しラウの痴態を愉しんでいたいが、時間と何よりも病室という環境がそれを許しそうもない。

「……出しますよ?」

そう耳元で囁くと、ラウが髪を乱し無言で何度も頷く。
腰を激しく突き動かしながら、洩れる嬌声に苦笑してラウの口を手で塞いだ。それが無理矢理ラウを犯しているような構図に思えて、背徳的な悦びがアデスの身体を満たす。

急激に下肢に溜まった熱は、熱い締め付けに堪えきれずにラウの内側で弾けた。













「………で、どういうつもりなんだ!?」

案の定、終わった後、アデスはラウに怒られた。
「叱責」などという格好のいいものではない。
ある意味、アデスは正気に戻った後で、海よりも深く反省していた。

ぐったりとベッドに横たわったラウは熱に潤む瞳でアデスを睨みつけた。
そんな仕草もけっこうクルな……と内心思ってしまったアデスだったが、何を言ってももはや言い訳になると分かっていたので、「心配で心配で、抱きしめてあなたの存在を身体で確かめたかった――」とは言えず、アデスは潔く黙って怒られたままだった。

黙ったままのアデスにラウがため息をつく。
この男のことだから、また考えすぎて自家中毒を起こした末の暴走だろうと何気なく思った。
だが、一方的にイカされて、人の気配が気になって身も心も存分に快楽に身をゆだねることもできずに、変なイメージプレイのような情事に納得できなかったラウは、この憂さを晴らさずにおくものかと心に決めていた。

「戻ったら、私が満足してもういいというまで眠らせないからな、覚えておけ!」

「え!?」

「命令だ!―――復唱は!?」

意地悪くそう言うと唇をにやりと歪めた。

「え!あの……その」

あれだけのことをしでかしておいて今更顔を赤くする男にラウは苦笑した。

「もうしわけ……」

「謝罪の必要はない。許すつもりはないからな」

謝ろうとしたアデスの口上を遮り、ラウはきっぱりと言い放った。

「覚悟しておけよ」

にっこりと微笑むラウは、新しいいたずらを思いついた子供のように楽しそうだった。




挨拶もそこそこにラウの病室を退室したアデスは、病室を出たところで回診に来た医師とぶつかった。

「失礼」

「こちらこそ、申し訳ない」

ただ一言、言葉を交わしそのままアデスは立ち去った。
その背を見つめる医師の視線に気づかないまま……………。



医師は、ラウの部屋に入るなり異常に気づいた。
頬は上気し、熱のせいばかりではなく潤む瞳。
ぐったりと身体をベッドに預けたラウの身体から漂う艶めかしい雰囲気。
カルテを持つ手が思わず震えた。

「今のは―――君の部下かい?」

内心の動揺を隠してラウに問う。

「ああ、それがどうか……?」

「いや、見舞いに来たわりには………」

首をひねる医師にラウが怪訝そうな顔をした。

「なんだ?」

「顔が真っ赤だったな……と思ってね」

その言葉にクスリとラウが笑みを洩らす。

「思い出し笑いかい?……何があったのかな?」

医師は笑顔を幾分引きつらせていたが、ラウはそれには全く気づく様子はない。
複雑な思いで軽く咳払いをした医師がベッド脇の椅子に腰掛けようとした時だった。

「ギルバート」

「何かな?」

「そこの花瓶、もう持って帰っていいぞ」

「……え?」

「病室に白百合か………あまりそういうことは気にしない質だが、余計な贈り物はいらないな」

そう言ってラウは、花瓶の中から水に濡れた何かを取り出した。
親指と人差し指で摘んだ小さな機器をギルバートの目の前にかざす。

「そっ…………れは!!!」

青くなったのはギルバートだ。中腰のまま動けなくなった。

「この私に小細工が通用すると思ったか!?」

低く氷のような冷徹な声がギルバートの耳を打つ。

パキッ

と音がして、小さな集音マイクが潰された。
ギルバートは、体中の血が一気に下がるのを感じた。

「あの………ラウ…?………その…これは、だね……」

取り繕うにも、目の前に決定的な証拠がある以上、言い訳を許される状況ではない。
ラウの目が据わっている。

こわい。

本能的な恐怖を感じたギルバートは、急に何か思い出したようにポンッと手を打つ。

「あ!緊急オペが入っているんだった、いやあ忘れていたよ。私も年かな?あははは………、ということで、君の診察はまた後で!」

見苦しい嘘を堂々とつきながら、徐々にドアに向かって後ずさりしたギルバートは、白衣の裾を翻し、逃げるように部屋を飛び出していった。


部屋の外では、護衛が首を傾げてその後ろ姿を見送ったのだった。






再び静けさが戻った病室で、ラウは疲れた身体をベッドに横たえた。

ぼんやりと窓の外を眺める。

「すべて世はこともなし………か」

澄み切った青空は何も変わらぬ絵のように、そこに在る。

子供たちの軽やかな声と鳥のさえずり。




ラウは、静かに目を閉じた。








END




ネタ提供:ゆっちさま
絵&マンガ担当:真夜さま
文担当:どに