※どに設定でのラウとレイの出会い編です。推測ネタバレが苦手な方はご遠慮ください。
□ □ 涙 □ □
side*Raww
泣けるということは幸せなことだ。
今はもう、涙すら流れない。
この感情を何と言えばいいのか。
目の前の重く冷たい鉄扉を開けると、もう一人の自分がそこにいた。
鍵の掛かった無機質な暗闇の中で膝をかかえ蹲る小さな身体。
白い検査着しか着たことがないのだろう。
手首には番号の入った認識用のタグを付け、白い手足に鬱血の痕が見られる。
それは身体のあちこちに点在しており、しかも外からは見えにくい場所ときている。
注射針、もしくは点滴の痕だ。
しかも一度や二度ではない。一ヶ所の鬱血がひどくなると
場所を変えてまた何度となく続けていたことが見てすぐに分かった。
明らかに人道的な一線を越えていた。
だが、法も倫理も宗教も、
そして人の理性や良心さえも、
彼を守るものは何もなかった。
研究所から秘密裏に運び出された受精卵。
それはかつて封印されたはずのもの。
封印を解いた者は、己がどれほどの罪を再び生み出したのか自覚していたのか。
あの一族はそこまでして何を得ようとしているのか。
そして世界を支配しようとする人間たちは――――。
◇
繰り返される悲劇。
もう二度と見たくないと思っていたその光景。
目の前にいるのはかつての自分の姿か。
嫌悪と憎悪と悲しみが胸の中をかき乱す。
いつまでも過去の幻影に囚われているかのようだ。
あの男の受精卵が残っていたことを知らされた時の驚愕と、
それが持ち出されたと告げられた時の恐怖。
そして、怒り。
死んでもなお祟るか、あの男は。
全ての元凶は、あの男―――アル・ダ・フラガ。
クローニングされた奴の受精卵は、自分だけではなかった。
一つ残らず処分しなければ―――
そう思ったのは
悲劇を繰り返させないようにするための義務感からだったのか
それともあの男への憎しみからだったのか。
あの血に繋がる者をこの世に留めておいてはならない。
自分と同じ存在を増やしてはならない。
ただ、漠然とそう思った。
何か強迫観念めいた想いだったのかもしれない。
奴の罪悪は、凝った澱のように静かに密かに溜まっていった。
私の知らないところでそれは拡大し、増殖した。
そして、憎しみもまた……。
◇
やらねばならないこと。
それは、残った受精卵すべての廃棄。
もう二度と自分と同じ生命が利用されることのないように。
何もできなかったあの頃とは違う。
このために手に入れた力が今の自分にはある。
組織の中で頭角を現し、人を操り、力を蓄え、歴史の歯車を廻す。
人類の歴史そのものをも動かす―――いや、終わらせるのだ。
コロニーメンデル。
全ての始まりの場所。
私は、再びあの場所へと還った。
GARM R&D研究所。
怒りを生み出した場所へ。
人の生命因子を操作する研究の中で、偶然生み出された凶悪なウイルスの存在。
それを知っているのはごく限られた者だけだった。
自分の身体の秘密に関係していたからこそ、私も知り得たことだった。
それは、私の身体を造り出すために行われた研究の果てに誕生したからだ。
施設の奥底で厳重に管理され、封印された災厄の函。
その函を開けた。
放たれた災厄はコロニー内を満たし、研究所は廃墟となった。
強力な紫外線照射によって殺菌されたコロニーは、
生物を育まぬ死の土地へと変わり、置き去りにされた受精卵のすべてが正常な機能を失った。
だが、それ以前に持ち出されたものの中には既に解凍された受精卵もあった。
解凍に失敗したもの。
誕生後に処分されたもの。
多くの生命の素が費やされた。
たとえ、それが「人」になる前の小さな肉塊だとしても、私には聞こえるのだ。
怨嗟と憎悪の声。
悲鳴。
声ならぬ赤子の叫びが―――。
「人」になる前に消された存在。
「人」になってからも存在しない生命。
消耗品のように造られ、利用され、捨てられた子供。
人の醜悪な欲望の塊。
その化身として生まれた哀れな子供。
すべての憎悪と罪悪が凝縮された呪いそのもの。
自分と同じ禁忌なる者。
もう一つの穢れ。
終わらない連鎖など呪いでしかない。
だから終わらせる。必ず。
この生命の連鎖を絶ち切るのだ。
この苦しみを―――。
呪いを―――――。
◇
白く無機質な壁が続く研究施設の地下にその部屋はあった。
懐には鈍い光をはなつ冷たい鉄の塊。
既に手になじんだグリップを握り、安全装置をはずす。
鍵をはずし、扉を開けた。
すべてを廃棄する―――その決意を翻したのは、暗く狭い檻の中で泣いていた一人の子供。
その子供は、泣いていた。
私と同じ金色の髪。
青い眸。
震える身体。
洩れる嗚咽。
温かい涙で頬を濡らし、泣き声を上げながら膝をかかえる生命。
その声がまるで「生きたい」と言っているようで
私は手にした銃をそっと懐に戻した。
自分の手で終わらせるはずだった呪いの連鎖。
できなかったのはなぜ―――?
side*Rey
自分の頬を濡らす涙の温かさ。
それは生きている証だとあの人は言った。
自分がここにいて、何かを考え、感じ、行動する。
少なくとも感情と感覚はちゃんと働いていたことの証なのだと。
悲しみも苦しみも寂しさも痛みも
ちゃんと知覚できた。
それが生きているということ。
そして、喜びも知った。
頭を撫でる手。
触れた手のぬくもり。
やさしい微笑みが自分に向けられたものだと知ったとき、俺は光を見た。
その光は、強く、鋭く、
闇を打ち払うかのようなまばゆさで
冷たくて暗い世界から俺を救い出してくれた。
名前をくれたあの人。
最初に俺の名を呼んだあの人。
あの人の手に引かれ俺は暗い部屋から出た。
初めて目にする世界は輝いていた。
輝いているのだと知った。
ただ
ただ嬉しかったのだ。
あの一瞬のために
暗く閉ざされた檻の中での「生」があったのだと思えるほどに。
だから俺は間違えたのだ。
あの人のすべてが明るく美しく強い光なのだと。
知らなかったのだ。
影の濃さに
闇の深さに
この呪いに。
気づかなかったのは自分。
その闇を受け継ぐのも自分。
泣かないことが強さだと思っていた。
泣けないことは不幸だと知った。
こうして連鎖は続いていくのか。
End 2005.0603
【補足】
ちゃんと小説にすれば良かったのですが、時間の都合で簡略版というか、
あらすじ紹介のような文章になりました。説明が足りないので補足します。
↓ 以下反転
◆どに設定解説
当主アル・ダ・フラガの死と、その長男の出奔により直系血族を失ったフラガ家は、
一族の直系にのみ遺伝する「能力」を持つ者がいなくなったため、没落の一途を辿る状況追い込まれた。
そこで、残った親族がフラガ家再興のために連合(ロゴス)と取り引きをする。
資金援助をしてもらうかわりに差し出したのだ。
彼等の欲する研究材料を。
クローンを生み出すのに保存してある受精卵が一つだけということはあり得ない。
分裂途中で失敗する可能性が高いため、スペアは数多くあるはず。
そのうちのいくつかを「売った」のだ。
歴史の裏舞台に登場すると言うフラガ家の特殊な能力を研究すれば、
エクステンデッドの開発に役立つと思った連合の研究機関に
アルのクローニングした受精卵を売ることで、自分たちの生活を守ろうとした一族。
しかし、その情報を手に入れたラウは、すべての受精卵の処分を決断する。
持ち出された受精卵の行き先を突き止め、廃棄しようとした。
メンデルに残っている受精卵の処分と、
自分を造り出した研究機関への復讐を込めて、バイオハザード起こすきっかけをつくったラウ。
ラウの思惑通り、殺菌処理のため紫外線照射が行われ、
あらゆる細菌・ウイルス・体組織・細胞など、動植物を含めた生命体が死滅。(人間は避難できた者もいた)
更に持ち出された受精卵の所在を確かめ、自ら処分に行った先で、偶然レイの存在を知った。
自分の手ですべての連鎖を絶とうとしたラウは、
レイが閉じこめられている部屋を突き止め、銃を手に扉を開けたが……。
あまり反転しても意味なかったかも・・・。