―――――彼をこの手で殺した。 僕の この手で……。 ++白き衣++ たくさんの人の悲しみと、憎しみと、 血に酔ったような訳の分からない熱情が満ちる戦場で、 切っ先の向こうには「神の意志」という名の機体があった。 僕は、怒りに駆られて、彼の機体に激情を叩きつけた。 あの時、殺意は確かにあった。 もう少しで手が届くはずだったのに、彼女を守れなかった。 彼の明確な憎しみは、僕だけではなく、僕の大切な人たちにも向かった。 憎しみが憎しみを呼び、僕は彼の思惑通りに戦いへと駆り立てられた。 原罪の場所「メンデル」と呼ばれたコロニーで 彼の悲鳴のような告白と、嘆きを耳にして、やりきれない想いを抱いたことは確かだ。 だが、同時に恐ろしかった。 僕も「彼」と同じなのだと―――。 それを思い知らされた気がした。 彼と同じモノ。 コインの裏表のように近い存在。 けれども正反対の存在。 僕には未来があった。 だが、彼には未来はおろか、過去も現在もないのだ。 彼の憎しみの矛先が彼女へと向かい、彼女は宇宙に散った。 その瞬間、怒りと憎しみが僕の心を支配した。 彼が世界と人を憎むように 僕も憎しみと怒りを彼に叩きつけ、戦いを終わらせようとした。 だけど、声が聞こえたんだ。 僕は一人じゃない。 彼とは違う。 大切な人がいるこの世界をただ、守りたい――― あの一瞬にそう思ったんだ。 彼の機体を貫いた刃。 だけど、最期に その瞬間に 知った事実―――― あの一瞬、僕の心を占めていたのは、怒りじゃない。 憎しみのままに彼を手に掛けなくてよかったという安堵感と、悔しさだった。 彼は常にひとりだった。 「ひとり」で在ることしか知らない彼の 未来を望むことすらできなかった彼の 命を絶つことでしか、解き放つことができなかった。 自由にしてあげられなかった。 僕の手を離れた刃は、吸い込まれるように彼の機体を貫いた。 砕け散るコクピット。 もう、僕はどうしようもなかった。 全てを焼き尽くす光が宇宙を満たすのを見送るしかなかった。 あの一瞬に なぜ、知ってしまったのだろう。 知らないまま、 彼を憎んだまま、 戦いが終わってくれれば良かったのに。 彼はずるい。 血の滲むような憎しみを 僕に、 全ての人間に、 世界にぶつけながら、 どうしてそんなに一途なのだろう。 彼は、ただ一つのものを望んで、 そのためにすべてを滅ぼそうとして、 自らを贄に 賭をした。 僕を利用して……彼は、ひとり安息の地を手に入れた。 彼の最期のひと呼吸。 そんな吐息を僕は知らない。 そんな微笑みを僕は見たことがない。 どうして…… どうして、僕でなければいけなかったのだろう? 彼を止める人は、ちゃんといたはずなのに……。 そんなにも、彼の憎しみは深かったのだろうか。 僕の存在はそれほどまでに呪わしいものだったのだろうか? 彼を苦しめ続けるほどに………。 これは、その代償だというのですか? 彼の命を絶ったのは僕―――― これが、本当の「宿縁」と言うのではないだろうか。 そして今、彼を形づけていた白い制服を身にまとう自分がいる。 人々の畏敬と、ある種の人間にとっては嫉妬と憎悪の対象。 彼は、そうした視線をずっと受け続けてきた。 その視線に今度は僕が晒されることになった。 これは、運命のいたずら?皮肉? 僕への罰? それとも、こうして連鎖していくことは呪い? 今は亡き彼に、もう答えを聞くことはできない。 だからこそ、僕は白い制服を手に取った。 見えない未来を 確かな明日にするために 彼の最期の吐息を常に傍に感じながら………… そして、僕をずっと囚われる。 ザフトの白き英雄――――ラウ・ル・クルーゼに。 END 「白服キラ」のことを聞いて、ちょっと妄想。 どんな感じだったのか、見てないけど、キラはラウの生をずっと背負って生きていって欲しい。 どんなに苦痛に満ちた生でも、それがキラの覚悟だということなら貫いて欲しいと思う。 ザフトの白き英雄ラウ・ル・クルーゼの象徴とも言うべき「白い制服」。 キラが白服を着るのは皮肉な運命かも知れないけれど、 キラがラウにできなかったことをやってくれるならそれでいいや…って思います。 2006.09.16 |