◇ 


翌朝、本部に出頭した二人を待っていたのは、新たにクルーゼ隊に配属が決まった五人の少年兵だった。
制服の色は赤。
士官学校をトップの成績で卒業した新兵だ。
いずれもMSパイロットとして、ヴェサリウスに乗艦する。

彼らの経歴書の家族構成欄を見ていたアデスはため息をつく。
5人中、4人の親の名前に覚えがあったし、顔もすぐに思い浮かぶ。なにしろプラント最高評議会の委員たちばかりだったのだ。
その中には、プラント政権発足の立役者でもあり、ザフトの設立の中心的人物となった現国防委員長パトリック・ザラの名もあった。
ますます国防委員長との結びつきが深くなるクルーゼ隊は、ザフトの中でも特殊な任務を負うようになっていくだろう。そのほとんどが公にできないものになるだろうことも推測できた。
それが不満なわけではないが、釈然としないものを感じているのは確かだ。
着任挨拶の後、彼5人はすぐにヴェサリウスへ乗艦すべく軍港へ向かった。
クルーゼとアデスは司令室で次の任務について命令を受けた。

「クルーゼ隊にL4コロニー群におけるテロリストの拠点捜索を命ず。
出港は本日1600時。なお、この任務にあたり、ローラシア級戦艦ガモフをクルーゼ隊に配備。速やかな任務遂行を期待する。以上!」

「ラウ・ル・クルーゼ、拝命します」

二人は、敬礼とともに命令書を受領し、司令室を出た。



軍港に停泊中のヴェサリウスでは、新たな任務につくための準備にクルーたちが忙しく立ち回っていた。

「あれ?ミゲル。帰っていたのか。隊長たちはまだだろ?」

クルーゼの随行を命じられて本部に行っていたミゲルは、帰艦後、自室に向かう途中、同僚のトロールから声を掛けられた。

「ああ、俺だけ一足先にな」

「ま、まさか!隊長に無礼な真似をしたんで、帰らされたんじゃ・・・・・・」

「ばーか。何言ってんだよ。情報専門の奴らと交代」

「そうか・・・ならよかった・・・・・・」

明らかにほっとした顔で胸をなでおろすオロールに「信用ねえなあ」と笑いながら文句を言うミゲル。

「で、どうだったんだ?」

「何が?」

「隊長の素顔」

「ああ、もういいや」

「はあ!? あんだけ気にしてたくせに!?」

「もういいんだよ。素顔がどうでも。隊長は隊長だしな」

「ふーん。お前もか」

「?」

「ああ・・・・・・いや、いろいろやろうとしていた連中も、なんだかどうでもよくなったみたいだ。みんな飽きっぽいのかな」

「そっか・・・」

「これで安心して任務に集中できるな。良かった良かった」

一人納得して立ち去るオロール。その後姿を見送りながら、ミゲルは呟く。

「よくねえよ。―――ちっ。敵(ライバル)が増えたってことじゃねえか」












ヴェサリウスに戻って、まずアデスがしたことは、サクラのことを調べることだった。
パソコンのライブラリには、「桜」は、バラ科の落葉高木で、その花は極東の「日本」という国では国花に制定されていたという。
木材は建築や家具に使用されたとあった。
ライブラリには一般的な事柄しかしるされておらず、大したことは分からなかった。
ただ、最後に花言葉が記されていた。

『貴方に微笑む』

アデスの口元が僅かにほころんだ。




出航前のヴェサリウスのブリッジ。
もはや定位置となった艦長席の背もたれに手を掛けるようにしてクルーゼは指揮を執る。
聞く者に快感を与える声が、名を呼んだ。

「アデス。出航する。ガモフに伝達!」

「は!」

隊長が艦長の名を呼ぶようになったことに、果たして何人のクルーが気づいただろうか。

アデスがクルーゼに出会ったことで、何かが変わりつつあった。
それは本人たちですら自覚していないことだったのだが―――。

程よい緊張と期待感を胸に新たな任務へと赴くアデスには、不思議と不安は感じられなかった。



出会い。

それは、ほんの些細な変化ではあったが、確かな前進でもあった。








サクラ―――それは、出会いと別れの花。








END

                                   「花霞」2004.08.14



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