+ギルレイ+
「ぬくもり」
L4のプラント「アーモリーワン」で、正体不明の敵に新型MSを奪われ、その奪回に向
かう途中、敵戦艦と交戦。新造艦ミネルバの眼前で敵の戦艦から切り離された燃料タンク
が爆発した。
その爆発の衝撃がミネルバのクルーを襲った。
悲鳴があがり、機材や道具がMSデッキに散らばる。
戦闘から帰投して、整備に立ち会うためMSデッキにいたレイ・ザ・バレルは、状況を把
握すべく、手近の艦内電話に手を伸ばした。しかし、ブリッジからの応答はなく、舌打ち
するとすぐに身を翻した。自身の足でブリッジへ向かったのだ。
戦闘時のため遮蔽された薄暗いブリッジ。
レイが入ると、こちらを見つめる人の気配。
そこに見慣れた人の姿顔を認めて思わず呟く。
「議長っ…!」
どうして―――という言葉を飲み込む。
まさかこんな最前線にいるとは思わなかったから。それよりも、こんな最前線にいてはい
けない人だから。レイは驚くと共に憤りを覚えた。
偶然が重なったとはいえ、ミネルバが議長を同乗させたまま危険な戦場へ出てしまったこ
とに。そして、その状況を防げなかった自分に。更には、議長を安全な場所に避難・誘導
しなかった側近や護衛たちに対して……。
そんな苛立ちを感じながらギルバートの顔を見る。
驚く自分に対して「何も言うな」とばかりに目くばせをするギルバートを少し憎らしく
思った。
自分がどんなに驚いたか、そして心配しているか知っているくせに―――。
だが、そんな想いも今はこの戦況を打破することのみに集中しなければならない。とはい
え、モニターを見るよりもついギルバートの方に視線を流してしまうのは仕方ないこと
だった。
遮蔽されたブリッジは薄暗く、モニターの光が青白く周囲を照らしていた。
ブリッジクルーの戦況を告げる声に混じって、低く穏やかな声が響く。
「だいぶ、手ごわい部隊のようだな」
その声にタリアが振り向く。
「ならば、なおのこと、このまま逃がすわけにはいきません。そんな連中にあの機体が渡
れば―――」
「…ああ」
深いため息にも似た言葉には自責の想いが込められているようにも感じられる。
「今からでは下船いただくこともできませんが、私は、本艦はこのままあれを追うべきと
思います。議長のご判断は?」
「私のことは気にしないでくれたまえ、艦長。私だってこの火種、放置したらどれほどの
大火になって戻ってくるか…それを考えるのが怖い。―――あれの奪還または破壊は現時
点での最優先責務だよ」
「ありがとうございます…」
居を正して艦長が全クルーに宣言する。
「では、本艦はこれより更なるボギーワンの追撃戦に移行する」
ブリッジの遮蔽が解除され、光が戻った。
「議長も少し…艦長室でお休みください。ミネルバも足自慢ではありますが、敵もかなり
の高速艦です。すぐにどうということはないでしょう。―――レイ!」
タリアに名を呼ばれ、自分が無意識のうちにギルバートだけを見つめていたことに気づい
た。夢から覚めたような面持ちでタリアに振り向く。
「ご案内して」
「は!」
艦長の命令に短く返答すると、目元に穏やかな色を浮かべるギルバートと視線が絡む。そ
の目が「頼む」と言っているのがレイにはよくわかった。
「こちらです」
背筋を伸ばし、ふわりと髪をなびかせて礼儀正しく議長をエスコートするレイ。
ギルバートを伴ってレイがブリッジを出て行く。その様子をタリアや副官のアーサー、ク
ルーたちが見送った。
レイに任せておけば、最高権力者に対しても臆することなくきちんと仕事をこなしてくれ
るだろう。それだけの落ち着きと冷静さを常に身にまとうレイだからこそ、船体を揺るが
した敵の攻撃に動揺することなく、真っ先にブリッジへ状況確認に来たのだから。戦況の
把握を第一に考えるのは、一兵士、一MSパイロットの素質というよりも、一軍の将たる者
の素質ともいえるものだった。
彼は、目の前の敵だけを見ているのではない。その先の動向に、そして、影に潜む敵の存
在にも目を光らせている。
レイは、MSパイロットの間だけでなく、ミネルバクルーの間でも一目置かれている存在
だった。
ブリッジの扉が閉まると、途端に二人の雰囲気が変わった。冷厳なイメージを伴うレイが
ほっと肩の力を抜くような、冷たい色を帯びた視線に熱がともったような…そんな空気が
流れる。
一兵士と、その雲の上の存在でもある自国の国家元首という関係では到底持ち得ない雰囲
気だった。
議長の前を歩きながらレイは、逸る心を抑えようと必死だった。
それでも、傍目にはいつも通りの冷静なレイの姿が映っていることだろう。もちろん、い
つも通りの議長の姿も。
二人は、廊下を滑るように移動しながら、艦長室を目指す。時折、通り過ぎるザフトの兵
たちが皆立ち止まり、議長に対して敬礼していった。
レイの後ろを歩くギルバートは終始無言だった。このフロアの廊下には低重力があるた
め、艦内とはいえ、歩くことにはなる。レイの後ろ姿を、歩みと共に揺れる金髪を眺めな
がら、ふと口元を緩めた。
エレベーターに乗り込み、二人きりになった途端、レイの表情が一変した。ギルバートに
振り向くなり目の前の男を詰るような視線で見つめた。
「あなたがどうしてここにいるんです!」
「レイ」
「こんな…なにが起こるか分からないような前線に出て……危険です!側近や護衛はなに
をしていたのか」
舌打ちが聞こえてきそうなほど苛立ちを露にするレイの姿も珍しい。
「―――レイ。久しぶりに話ができたのに、そう険しい表情で見つめられるのは辛いな」
「議長!」
ふざけないでくださいと言わんばかりに、レイはギルバートを軽く睨む。
その視線に全く動じることなく穏やかに微笑むギルバート。
「怒った顔もかわいいな」
「…っ!何を言ってるんですか!?」
からかわれたと知って頬を紅潮させる。ギルバートは、そんなレイの表情にますます笑み
を深くする。
「だいたい、このことを本国は知ってるんですか!すぐに連絡して迎えの艦隊を呼ばない
と―――」
「冷たいな、君は。こうしてようやく君と会えた私をすげなく追い返すのかい?」
口元に笑みを浮かべて、レイの言葉に嘆く振りをしてみせる。
「それとこれとは話が別です!あなたはご自分の立場が――――」
「分かっている。十分な」
声を荒げたレイの言葉を冷静なギルバートの声が継いだ。先ほどのふざけた様子とはうっ
て変わって厳しい表情だ。
レイは、ギルバートの表情に開きかけた口を閉ざした。
「……申し訳ありません。出すぎた口を―――」
「君が謝ることはない。全て私の見通しの甘さが招いたことだ」
「しかし―――」
「レイ。――――おいで」
レイの言葉を遮るように名を呼ぶ。
その言葉に躊躇うように一瞬だけ身を固くしたレイだったが、ギルバートがレイに手を差
し伸べ、微笑むのを見ると無意識のうちに目前の男の胸に飛び込んでいた。
ギルバートがレイをやさしく抱きしめる。
互いの体温が伝わる。
レイは、制服越しに伝わる温かさにほうっと息をついた。どうして、この男に触れられる
とこんなに気持ちよいのか。
ぼんやりと、そう思っていると、ギルバートが耳元で囁く。
「会いたかった…」
ため息にも似たその言葉にレイもまた目を閉じて応えた。
「……私もです」
ギルバートは、レイの頤に手をかけ、やさしく仰のかせる。レイの瞳が揺らぐのを認める
とそっと額に唇を押し当てた。
「守ってくれるのだろう?私を」
「――もちろんです」
レイが、花がほころぶように微笑んだ。
エレベーターが居住フロアに着くまでの僅かな時間、静かで穏やかな空気が小さな箱に満
ちていた。
■ここからは、悪い大人の方だけ。(R16)
艦長室に入り扉が閉まると同時に、レイは抱き寄せられた。壁に押し付けられ唇を奪われ
る。貪るように交わされる口付け。
吐息が次第に荒くなって、眩暈がするような感覚に陥った。
「ギルッ……」
立っていることが出来なくなって、レイはギルバートに縋りついた。
そんな様子をいとおしく見やって、ギルバートがレイを抱き上げる。
「さっき後ろ姿を見ても感じたが―――少し痩せたか?ちゃんと食べているかね」
「…ここが低重力だからです。それに私は同年代男子の平均と比べてもほんの少し軽いだ
けです」
「ほんの少しね」
こんな状況でもしかつめらしく答えるレイに苦笑する。
ソファにレイを下ろし、自分もそのすぐ横へ腰を下ろす。
「さすがにタリアのベッドを使うわけにはいかないか…」
苦笑するギルバートの言葉に真っ赤になったレイ。
「ギル…まさか……ここで!?」
ソファの背もたれにレイを押し付けるように、ギルバートがレイの両脇に腕をついた。
じっとレイの青い瞳を見つめる。
「―――抱きたい」
そんな真摯な目で迫られたら拒絶の言葉など出てくるわけがない。
「そん…な目で、言われたらっ…駄目だなんて言えないじゃないですか」
すでにギルバートの唇はレイの頬や耳たぶを掠めていて。レイの言葉は途切れがちにな
る。
ギルバートは、にっこりと微笑んで、唇を啄ばむようなキスをした。
制服の襟に手を伸ばし、はだけさせると首筋に唇を寄せる。そのまま、ソファの上に押し
倒した。
レイの白い喉元に顔を埋めるようにして朱の跡を残す。
「アッ…」
レイの制服のベルトをはずし、アンダーシャツの下から手を滑り込ませる。わき腹から肋
骨を一本一本辿るようにして指を滑らせる。
胸の突起を探し当てると、指の腹で愛撫し始めた。
「く…んっ」
声を詰めるようにして、レイは湧き上がる快感に堪える。
しっとりと吸い付くような肌の感触をしばし堪能すると、男はおもむろにレイの脇の下に
手を入れて抱き上げる。まるで子どもを抱き上げるように―――。
そのままソファに腰掛けた自分の膝の上に下ろした。向き合う形でギルバートに身体を預
けたレイが一瞬困惑の表情を見せた。
「…子どもみたいだ」
自分への扱いが不満だったのだろうか、レイがそうこぼす。
それを聞きとがめてギルバートがレイの下肢からブーツ・衣服に至る全てを取り払った。
「子どもにこんなことをする趣味はないよ。私には…」
そう言ってレイの下肢で息づくものに指を絡めた。上がった声にギルバートは口元を緩め
る。その男の顔を見て、レイは頬を染めて拗ねるような口調で咎める。
「…ギル―――愉しんで…いらっしゃるでしょう?」
「それはもう」
ふふっと声を立てて実に楽しそうに笑うギルバート。
その後はもう互いに言葉を交わす余裕などなくなった。
「やっ…もうっ……」
切れ切れの声で訴える。
ギルバートの長い指がレイの体の中を掻きまわし、掻き乱す。濡れた音と喘ぎが室内に響
いていた。
自身の膝の上で少年の細い腰を片手で支え、もう一方の手で身体をのけぞらせる少年の後
ろをほぐす。2本、3本と増やされた指をレイがきつく締め付ける。
「あっ…は…っ…あう…んッ…」
レイの目にはうっすらと涙が浮かび始める。与えられる快感に耐え切れなくなって、ギル
バートの肩を掴んでいた手が、首へと回されるようになると、ようやくギルバートがレイ
の望むものを与えた。ことここに至ってもギルバートは衣服を身に着けたままだった。さ
すがに、制服の上衣は脱いでいたが。
自分は、制服の上着を片腕に通しているだけの格好だったので、レイにとっては、ギル
バートの余裕ともいえる態度に、年齢の差を見せ付けられているようで、恨めしく思って
しまうのだ。
抜き去った指の代わりに突き入れられたギルバートの昂ぶり。待ちわびたものを与えられ
て、揺すり上げられるたびに、恥も外聞もなく極まった声を上げてしまう。
レイは、ギルバートの肩に頭を預け、快感の波を堪えようとした。
それはギルバートに甘えて頭を擦り寄せているかのようで、つい子どもっぽい仕草に笑み
が零れる。
目の前に晒された耳を甘噛みするとアアッと声があがり、レイがギルバートの雄を締め上
げる。その締め付けに男は熱情をレイの中に吐き出した。
奥に注がれる感触に背をのけぞらせて、レイもまた男の手の中で果てた。
くたりと力が抜けたレイの細い身体からギルバートが自身を抜き去ろうとする。
「んっ…」
レイの蠢く襞がそれを拒むかのように収縮する。
「レイ…力を抜いて……」
「そ…んな…無理ですっ……くっ・・・うんっ」
情動のままに、行為を続けることは容易いが、久しぶりに抱いた細い身体をあまり酷使す
るわけにもいかない。まして、非常時だ。いざというときレイの負担になるような抱き方
だけはしたくなかった。
「駄目だ。……分かっているだろう?」
つれなく響く言葉。
ギルバートはレイの唇に己のものを重ね、舌を絡める。ギルバートの口付けに応え始めた
レイの身体からゆっくりと自身を引き抜いた。
膝の上で大きく息をついて、恨めしそうな顔でギルバートを見上げるレイの髪を梳いて、
額にやさしく口付けを落とす。行為の最中に邪魔になった上着も床に落とし、惜しげもな
く白い肌をさらすレイの身体に自分の制服の長衣を着せ掛ける。
たったそれだけのことで、レイは嬉しそうに微かに口元をほころばせた。
ギルバートは、そんなレイをいとおしげに見つめ、抱きしめた。
◇ ◇ ◇
ソファに腰を下ろしたギルバートの膝に頭を預けて眠るレイ。
まだ、あどけなさが残る少年は穏やかな寝息をたてていた。膝に広がった金糸を梳くよう
にして撫でるギルバート。
こうして誰かに甘えるレイの姿を知る者など自分以外には存在しなかった。
他人に対して常に一線を引くレイが、ギルバートにだけは心を開いていた。自分に対して
だけは、怒りもするし、甘えもする。
「無表情」「無口」「無関心」と陰口を叩かれるレイの本当の姿を知っているのは自分だ
けだった。
それを嬉しく思う己に苦笑する。
ふと自身の手に目を落とす。
この手が握るものの危うさ、そして儚さ。
一時の夢。
己の目的のために全てを犠牲にする覚悟。
(まだ…惜しいと思ってしまうのか―――)
自嘲気味に笑う。
(覚悟など―――どれだけの人間が、本当の意味で覚悟したことがあるのか)
自分は知っている。
本当に覚悟を決めた人を。
そのために全てを断ち切った人を。
同じことが自分にできるのか―――それはずっと自問を繰り返してきたこと。
己の膝の上で眠る温かな存在を。
いとおしい者を。
いずれ、この手で壊すことになるかもしれない。
(私に―――できるのか?本当に――――)
ギルバートは、宙に手を伸ばす。
何かを掴むかのように固く拳を握り締めた。
+END+
■あとがき
ものすごーく悪いことをしている気分です。未成年にこんなことするのは…本当に本当に
―――後ろめたい気持ちでいっぱいです。10代の子どもを書くのは初めてなので。は
まったのも初めてですが…20代後半〜60代がどにの本来の守備範囲なのです。20代
後半でも若いくらい。(別ジャンルで60代×50代を描いていた時期があります)
でも今回のこれは―――犯罪だ…。これは本気で。―――どうしよう。
第3話の衝撃のシーン(レイがギルを艦長室に案内する)の後に、もし、ルナマリアの報
告が入らなかったら――――という「もしも」設定です。更に、第4話で「ミネルバには
ギルが乗っているんだ。絶対にやらせるものか!」というこれまた衝撃の台詞があったの
で、二人の関係がかなり深いと勝手に判断。ただし、どにとしては、あくまで二人の関係
は親子みたいなのを目指しているので、こっち方面をどう扱っていいのか悩んでいます。
今回は、とにかく「妄想しまくり大暴走小説」ということで。勘弁してください。2004.11.14 どにのりんかっぱ4