++白と黒++  
(ラウプチオフ・アンケート本へ寄稿)






「やはり、お前は黒が似合う」

アデスの黒い制服姿を惚れ惚れと眺め、ラウは満足そうに頷いた。







ここは、ヴェサリウス艦内の隊長室。
艦長のアデスは、隊長であるラウ・ル・クルーゼの部屋を訪れていた。
当直ローテーションで休息時間が重なると、どちらかの部屋を訪れることが、二人の間では習慣になっていた。

ほのかな室内灯に浮かび上がる白い肩。
シーツの波間に広がる金糸が揺れるたびに、せめぎ合う熱と甘い酩酊感に酔いしれる。
互いの鼓動と体温を感じることのできるひとときは、この上なく心地よいものだった。

ベッド脇の椅子の背に無造作に掛けられているのは、二人分の制服だ。
黒いザフトの制服の上に重なるように置かれたのは白いラウの制服。
白と黒のコントラストは、持ち主がブリッジに在るときと何も変わらない。

白に寄り添う黒――ヴェサリウスの艦内では、それは絶対的な信頼と安心の象徴でもあった。









「アデス、ちょっと待て」

ベッドを共にした後、制服を着ようとしたアデスを止めたのはラウだ。

「私がやる」

「はい?」

「私が着せてやるから、制服をかせ」

「え!?」

アデスが驚くのも無理はない。脱がせることはお互いよくやるが、着せるということはあまり経験がない。突然、やってみたいと言い出したラウの真意が掴めず、アデスは当惑する。

「そんな、隊長のお手を煩わせるわけには……!」

「一度、着せてみたいと思っていたんだ」

楽しそうなラウの笑顔。
つい先ほどまで男の身体の下で甘い吐息を洩らしていた人物と同じとは思えなかった。

「はあ……」

「いつもあまり考えずに脱がせているから、たまには、その逆というのも……な」

確かに、情事のために脱がせるときは、その先の行為を急ぐせいであまり記憶に残っていないことが多い。
尤も、ラウがアデスの服を着せてやることがあまりないだけで、その逆―――アデスがラウの服を着せてやることはよくあるのだったが。

「いいから、貸してみろ」

「本気……ですか」

とにかく、ラウは戯れにアデスに制服を着せたいと強請った。
交替の時間まではまだ間があるので、アデスは仕方なくラウの思い通りにさせることにした。


流石に下着とアンダーシャツはアデス自身が着てから、あとはラウに任せる。
まずは、スラックスをはかされ、ベルトを締められる。
同じ向きでないとベルトを留めにくいのかラウはアデスの背中から抱きつくようにして、前に手を回した。

「……なんだか、妙な気分になります」

正直にそう洩らしたアデスに、ラウがクスリと笑う。その微笑も触れ合った場所から伝わってくる。ラウはまだ制服を身につけてはいないので、軍の半袖アンダーシャツのままだ。アデスの広い背中にラウはぴたりと胸をつけているので、どうにも落ち着かない。

「お前は何もするなよ」

「そんな……」

「いいから、私の好きにさせろ」

「……はい」
ベルトのバックルがカチリと音を立てる。

「きついか?」

「いいえ、大丈夫です」

「考えてみたら、上着もベルトを締めるのだからスラックスの方にはいらないのではないか?」

「私は両方する派ですね。隊長はなさらないんですか?」

「しないな。ベルト二本は面倒だろう」

ああ、だから……とアデスは思った。
ラウの腰回りがスッキリと見えるのは、上着の下にベルトをしていないせいだろう。細腰がよけいに細く見えるのはそのせいだ。

「次は上着だな」

ラウが黒い制服の上衣を手に取って広げ、ふと、襟の内側に縫い取りがあることに気付いた。

「名前……? 私のものにはないぞ」

「それは、そうでしょう。黒服は大勢いますが、白服はあなたしかいないのですから、名前を縫い取る必要がないでしょう? なにしろ間違えようがないですからね」

「ふむ、そういうものか」

アデスが笑う。

「ええ、そういうものですよ」

ラウがアデスの背後に立ち、黒い服を着せ掛ける。

「そちらの腕を通せ」

アデスが言われた通りに腕を袖に通すと、ラウは正面にまわって襟を合わせ始めた。
ファスナーを上げ、襟のフックに手を掛けた。上手くかからないのか、わずかに眉を寄せる。

「自分のはすぐにできるのだが、向きが変わっただけで上手くいかなくなるものなんだな」

「ああ、他人のタイを締めるのは難しいですよね。あれと同じですか」

「そう……ん、アデス、少し顎を上げていろ」

手元に集中するあまり、アデスの話を半分上の空で聞いているラウは、アデスに短く命じた。

「あ、はい」

「……こうか。よし」

ホックが上手くはまって、満足げに息を吐いた。
続けて、上着のベルトを締めることになったのだが、ラウはベルトを手にして、突然アデスを正面から抱きしめた。

「たっ、隊長!?」

「こら、動くな。じっとしていろ」

ラウは、慌てるアデスをよそに平然と作業を続ける。
動揺したアデスが行き場のない両手を宙で蠢かした。通常なら抱きしめ返すアデスの両手は目標を失ったまま彷徨う。
ラウは、先ほどと違って正面から抱きつくようにしてベルトを腰にまわし、正面で金具を留めた。

他人に着せてもらうというのは、密着度が非常に高いので、どうにも落ち着かない。まして、愛する人に積極的に抱きしめられているようで、否が応でも気分が盛り上がってしまうのが難点だ。

ここでまた脱ぎ始めたら、せっかく着せたのに!と、怒られるだろう。
それは、それで構わないのだが、このタイミングで機嫌を損ねるのは避けたいので、アデスはぐっと我慢する。

ラウは最後に黒い軍帽を手に取ると、アデスの真正面に立ち少し背伸びをするようにして軍帽をかぶせた。真剣な眼差しで帽子の角度を調節しながら、少し離れて確認しつつ、また角度をわずかに直すということを繰り返す。そのあまりに熱心さにアデスが苦笑した。

「なんだ?」

「自分でもこんなに熱心に軍帽を直すことはないものですから」

「何を言う。軍帽の角度は重要だぞ。これによって男前度が三割増しになることは、既に実証済みだ」

「隊長も軍帽を被っていた時期があったのですか?」

「そうじゃない。本人ではなく周囲から見た時の見栄えのことだ。毎日傍でお前の制服姿を観察している私が、実感しているのだから間違いない」

こちらが恥ずかしくなるようなことをさらりと言われて、アデスの頬が思わず緩む。

「それほど観察されていたとは、気付きませんでした」

「何しろブリッジでは立ち位置が常にお前の斜め後ろだからな。観察し放題だ」

「それで、結論はいかがです?」

「それは、今から鏡を見ろ」

どうやらラウは、自分が一番格好いいと思えるアデスの帽子の角度に仕上げたようだ。
間近で瞬きもせずに自分を見つめる青い瞳に、アデスの脈拍は早くなる一方だ。

「そういえば、隊長の制服姿は、白しか拝見したことはないのですが。以前は、別の色の制服も着ていたのですか?」

「そうだな……、黄道同盟時代は赤だったが、今のザフトの赤服とはデザインが違ったな」

「それは、拝見したかったですねぇ」

アデスがラウと出会った時には、すでに彼は白服だった。
過去の映像が残っているのかどうか知らないが、この目で見たことはない。

「ザフトになってからは? すぐに白服になったのですか?」

「いや、カルバーニの艦長をやっていた頃は、黒服だったな」

「え!? 本当ですか!!」

「……なんだ、そんなに驚くことか?」

「見たかったです」

「は? なにを」

「隊長の黒服姿をです」

ものすごく悔しそうに言うアデスにラウは複雑な顔をした。

「見ても面白いものではないが?」

「いえ、隊長といえば、白服と言っても過言ではないくらい、白いザフトの制服の代名詞になっていらっしゃいますから、どれくらい印象が変わるのかと思いまして」

「白が黒に変わっただけで、それほど大した変化はないと思うぞ」

「そんなことはありません。一度着てみていただけませんか?」

「黒服などとうに返却したから無理だ」

軍の制服は貸与品だ。昇格などで色が変わる際には、軍に返さなくてはならないので、古い制服が手元に残ることはほとんどない。それにラウは物への執着が薄い方なので、いらないものを保管しておく習慣はなかった。

「僭越ながら、私の黒服ならあります!」

ラウは、なぜ、制服の色ぐらいで嬉々としているのか理解に苦しむといった表情で、アデスを見た。

「無理だな。サイズが合わない」

身長や肩幅はアデスの方が大きいし、ウエストのサイズだって違う。確かにアデスのぶかぶかの黒服を着たところで、不格好なだけであまり見た目はよくないだろう。

それにしても、アデスがラウに対して何かして欲しいと言うことは珍しい。
がっくりとしょげている大きなクマを目の前にして、ラウもつい絆されてしまった。

「仕方がないな、今度機会があったら着てやる」

途端に嬉しそうに顔を上げたアデスに、やれやれ、と息を吐いて苦笑した。

「その代わり、私のサイズの黒服が用意できたらだぞ」

「お任せください! 本部の軍務課には同期がおりますので、こっそり、あなたのサイズを用意してもらいます」

曲がったことが嫌いなくせに、こういう時に裏技を使うのはいいのかとラウは半ば呆れた。

「ちなみに制服のサイズはいくつですか?」

先ほどまで森の中を俯き加減で歩いていたクマが、スキップを始めそうなくらい喜色満面な表情になったので、ラウは噴き出しそうになった。

「知っているくせに、聞くな」

するり、と細い腕がアデスの首に絡まる。

「え? 推測はできますが、さすがに正確なサイズは把握しておりませんよ」

アデスはラウの身体を抱き留め首を傾げた。ラウは嫣然と微笑すると、耳元に唇を寄せて囁く。

「馬鹿だな、お前の身体が知っているだろう?」

抱き寄せた時の腰の細さや、すっぽりと腕の中に収まってしまう細い肩、口づけする時の首の傾度で身長も分かるはずだ。
何よりも、アデスは、ラウの身体で触れたことのない場所はないというくらい、直接指先で触れている。
本来なら知りようのない際どい場所にも――。

途端に真っ赤になった男の顔を楽しそうに見つめ、ラウは言葉を失った男の唇にキスをした。







―――後日談。

「本当に用意したのか!」

目の前に差し出されたのは、きっちり折り畳まれた黒いザフトの制服と、その上に乗った軍帽。差し出す男が着ている物とまったく同じ色のそれを、ラウは驚きを通り越して唖然とした顔で見つめた。

「ぜひ、着てください!」

鬼気迫る表情でザフトの黒服を差し出され、ラウはたじろいだが、約束は約束だ。渋々、黒服を手に取った。

「では、着替えてくるから少し待っ……」

唐突に手を掴まれ、引き寄せられた。

「着替えなら私がお手伝いしますよ」

にっこりと笑うアデスに抗う気も起きず、ラウは溜息混じりに「好きにしろ」と言うしかなかった。

もちろん、白服を脱がせて黒服を着せるという一連の作業だけで終わるわけがなく、ラウの黒服姿を見ることが出来たの翌朝になってからだった。









― 終 ―





「あ、あれ?……・なに、この夫婦…」
ラウプチオフのアンケート設問で「ラウに着せたい衣装は?」というのがあったので、「ザフトの黒服と軍帽」と答えたのですが、それなら実際に書いてみようと思っていろいろ妄想しました。 
白服の隊長の横に黒服のアデスがいるっていうのが、視覚的にもえるんですが、黒服の隊長も見てみたいなー、と常々思っていたものですから。
黒服だと軍帽もきっと標準装備ですよね、きっと!
ラウ黒服バージョンって、なんだか倒錯的だなぁと思ったり(笑)。 
アデスのでっかい黒服を着る隊長というのも一部マニアにはたいへん萌えなんですが。


↓ おまけ。昔描いた白服&黒服隊長