+++私語厳禁+++





ラウは、物憂げに頬杖をつきながら、手元のモニターに映し出される報告書の文字を目で追っていた。もう1時間近くそんなことを続けていて、いい加減飽きてきたというのが正直な気持ちだった。
ふうっと溜息をついて、すぐ隣に座る黒い軍服の男に声を掛けた。

「アデス、食事にでも行かないか?」

「…………は、はい」

アデスは、驚いた、というよりも妙に戸惑ったような声を出した。

「なんだ? 先約でもあったのか」

意外そうな顔でアデスを見つめる青い瞳。

「いえ、そういうわけではなく……」

その目に居たたまれないようにアデスは視線を逸らした。

「ここでは……その……」
「うん?」

歯切れの悪いアデスが周囲にちらりと視線を投げたのに気付き、ラウもまた周囲を見渡した。
いくつもの奇妙な熱と感情のこもった目が二人に集中していた。皆、目を丸くして、息継ぎに失敗したような奇妙な顔をしている。
ラウとアデスがいるこの場所には、楕円形の会議机の周囲をぐるっと囲むようにしてザフトの制服姿が並んでいる。

「ああ……会議中だったな」

二人の会話は、別に声を潜めるわけでもなく、特にラウの涼やかなテノールはよく通ってしまうので、誰の耳にも会話の内容は筒抜けだった。

「気にするな」

さらりと言われて、ふわりと微笑まれて、アデスの気持ちがぐらりと傾く。

「いえ……ですが……隊長」

アデスがしどろもどろで答えた。

「堂々巡りで結論は出なさそうだ。――――ということで、この議題は持ち帰って各自再検討し、後日協議再開ということで、よろしいか?」

後半は、会議の出席者全員に向かって告げたラウは、すでに席を立っている。その言葉を誰もが「よろしいか?」ではなく、厳とした命令として捉えていた。もちろん、反論しようと思う者はいない。

「あっ……ちょっと、隊長!待ってください」

ラウに続いて、そそくさと立ち上がったアデスにいくつのも鋭い視線が突き刺さる。一方的に会議を中座した厄介者に対するそれではなく、どちらかと言えば、ザフト軍内随一の麗人ラウ・ル・クルーゼに食事に誘われた男への嫉妬の視線だった。







会議室から出たラウは、伸びをして隣を歩く男の顔を見た。

「さて―――どこがいい?」

「昼食抜きでしたからね。最近近くにできたイタリアンの店があるそうですが」

「では、そこへ」

一つの議題に1時間も掛ける会議など馬鹿げている。しかも、内容は『新しいザフトの制服について』というから呑気なものだ。ザフト内で唯一白い制服を着用しているラウをアドバイザーに迎えての意見交換会だったのだが、ラウにとってみれば「勝手に好きにしてくれ」という気持ちだ。

「結局またこの会議に出ることになるのでしょうか」

アデスにとっては、気が重い会議だった。ラウが不機嫌になるのがわかっていたからだ。

「出席依頼の通知が来たら、全部無視しておけ」

「……了解しました」

ラウの一言にほっと胸を撫でおろしたアデスだった。






END





なんか、フツーの日常というか、ヤマもなければ、谷もオチもない話が書きたかったんです……(笑)。会議中に惚気る二人というか。



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