□ NEW YEAR □





ヴェサリウスの隊長室で、クルーゼはひたすら報告書を作成していた。

艦内の各部署から上がってきた報告書に目を通し、隊長としての見解を加えた上で本国へ送らなければならない。クルーゼはここ数日、今後のクルーゼ隊の行動予定と共に隊員たちの勤務評定を作成するのにかかりきりだった。
隊長職は、戦闘中の指揮だけやっていればいいと思われがちだが、思いの外、書類上の業務も多い。
年末ともなれば、雑多な業務が集中し、寝る間もないほどだ。

ドアがノックされ、「失礼します」と言って人が入ってきた時も、クルーゼは顔を上げることなくキーボードに打ち込んでいた。
聞き慣れた声の主がゆっくりと歩み寄ってきても、画面に集中し続けている。
カタカタとキーボードを叩く音だけが室内に響き、デスクの真正面に立った男がじっと見下ろしている気配を感じながら、それでも作業の手を休めない。

「おめでとうございます」

突然、そう言われてクルーゼは、ようやく顔を上げた。

「………?」

怪訝な顔で男を見上げた。
黒いザフトの制服を着た部下は、どうやら、「おめでとう」の意味がわからず不思議そうな顔で首を捻った上官に苦笑を漏らす。
クルーゼは時間が経つのも忘れて作業に集中していたようだ。

「新年です」

そう言われて「ああ」と、ようやく合点がいったようだ。

「もう……そんな時間か、気付かなかったな」

手元のデジタル表示に目をやって、新年が明けてから30分ほど経過していたことにようやく気付いた。
クルーゼ自身には新年を祝う習慣はなかったが、艦内の非番の者は、ラウンジに集まりささやかなパーティを行っているらしい。もちろん、分別をなくさない程度のアルコールは許可した。
数日前、一部の兵たちが幹事を務め、節度を守るという前提で、新年パーティの開催許可を求めてきた。その中にザフトレッドのディアッカやニコルの名前があったため、すんなりと許可された。
クルーゼは、あまりそういうことに頓着しなかったため、たまには息抜きが必要だろうということでアデスが艦長権限で許可したのだ。

「ディアッカたちがラウンジでパーティをしているそうですが、顔をお出しになりますか?」

「ああ………そういえば、そうだったな。わざわざ私が行って水を差さなくてもいいさ。……にしてもディアッカも意外にマメだな」

「ああいうことが好きなんでしょうな」

アデスが口元に笑みを湛える。

「らしいといえば、らしい……か」

「ニコルもおりますので、ハメを外しすぎることはないかと思います」

「イザークとアスランは?」

「この時間は彼らがシフトですので、待機ですね。参加できなくて残念でしょうが」

「そうか」

クルーゼが、おもむろに仮面を外すと、目頭を押さえるように揉む。モニターに集中しすぎて目が疲れたようだ。

「……お疲れですね」

「ああ、いや……少し根を詰めすぎたか」

「肩でもお揉みしましょうか?」

「いや、かまわんよ。それよりも、いざとなれば私が出るからアスランとイザークにもラウンジに行けと言ってやれ」

クルーゼの言葉にアデスが複雑な顔をした。

「隊長のお気持ちはありがたいのですが、おそらく彼らは納得しませんよ」

「なぜだ?」

「上官を出撃させて、自分たちはパーティですか……真面目な彼らにはとてもそんなことできません」

「そういうものか……」

「はい。逆に怒られると思います。イザークは特に、あなたを尊敬していますから」

「なるほど………怒られるか……」

クスクスと楽しそうに笑うクルーゼが、アデスの目の前にある。
仮面を外し、秀麗な美貌を惜しげもなく晒すクルーゼが、無防備な笑顔を見せた。
恐らく、他人には見せたことのない笑顔だろう。それを思うとアデスの胸は嬉しさと愛しさでいっぱいになる。

ふいにクルーゼの頤に指がかけられ、仰のいた顔にアデスの顔が近づいた。

「ン……」

重なった唇からは甘い吐息が洩れ、口づけられた瞬間に軽い驚きに見開いた瞳は、諦めたようにそっと閉ざされた。




しばらく互いの唇を貪った後、ラウが唇を離しジロリとアデスを睨む。

「仕事中なのだが………?」

「……すみません。つい……」

つい、我慢できなくて、クルーゼの唇に触れたくなった挙げ句、許可も得ず奪ってしまったアデスが赤面した。

「まあ、よい」

そう言ってアデスの頬に手を伸ばした。
アデスの頬をするりと撫でると、今度はクルーゼからアデスに口づけた。

悪戯ぽい目でアデスを見やり、クルーゼがニヤリと口角を上げた。

「もちろん……この報告書の山を手伝うということだろう?」

アデスが目を丸くして、次の瞬間、苦笑した。

「………喜んで……お手伝いさせていただきます………が、その前に」

「何だ?」

「……もう一度よろしいですか?」

我ながら転んでもただでは起きないなと思いながら、アデスがクルーゼの唇をなぞる。

「新年早々……か?」

頷く代わりにクルーゼが、その指を甘噛みし、赤い舌を覗かせた。






END




2007 A HAPPY NEW YEAR!
あけましておめでとうございます。 今年もアデクルでよろしくお願いしますv