++インターホン++ 朝、インターホンの音で目を覚ました。 ザフトの上級士官用官舎の隊長の部屋で一晩を過ごした我々は、今日は丸一日オフになるはずだったので、朝寝を愉しんでいた。結果、意識的にいつもより寝坊していた。 枕元の時計を見ると、午前10時20分を少し過ぎた頃だ。 オフだと分かっていると寝起きの悪い隊長は、案の定、毛布にくるまってもそりと動いただけで、起きる気配はない。 「隊長……お客様のようですが」 「ん……」 「隊長、起きてください。インターホン鳴ってますよ!」 「う……ん」 埒があかない。 溜息をついて立ち上がると、もう一度時計に目をやる。早朝に他人が隊長の部屋にいたらまずいだろうが、もうこの時間だ。言い訳はいくらでもできると考えた。 「自分が出ますが、いいですか?」 「……ん」 相手がわからないまま部屋の主ではない者が応対して、本当にいいのか判断に迷ったが、一応モニターの映像を切って音声のみで応答することにした。 「はい」 相手は一瞬、驚いたように息を呑んだ気配したが、すぐにインターホンに向かって名乗った。 『レイです。あの……ラウ……、いえ、クルーゼ隊長はいらっしゃいますか? もし、お取り込み中ならまた出直します………』 「あ!……ああ、ちょっと待ってくれ!」 声を聞いて慌てた。もう、言い訳するまでもなく、私がこの部屋にこの時間いる理由は知られてしまっているだろう。慌てて寝室に戻って、ベッドの上の住人から毛布をはぎ取った。 「隊長!起きてくださ……っ!……うわ!」 そうだった!情事の後、そのまま眠りについたのだから、当然、素肌のままだ。すぐまたぼふっと毛布を肌の上に掛けた。 「隊長、早く服着てください! レイです。レイ・ザ・バレルです!」 「うん?………レイが……どうした?」 毛布をはぎ取っても丸くなったまま起きようとしなかった隊長が、「レイ」という単語に反応する。 「今、部屋の前にいます!」 まだ寝ぼけているのか、髪は寝癖がついたままラウはのそりと起きあがったが、どこか表情が不機嫌そうだ。 「レイが?」 軽く眉を顰めて、何か考えている。 「はっ……早く服を……」 「シャワー浴びてくるから、お前が相手をしていてくれ」 まったく慌てる素振りもなく、そう言うと立ち上がってさっさとシャワーブースへ行ってしまった。 そう言われても、どうしていいかわからない。情事の後で、いくら服を着込んでも隠しきれない雰囲気や香りといったものに気付かないほどレイは子供でもないはずだ。 「弱った……」 思わず頭を抱え込む。だが、せっかく来てくれたのにそのまま帰すわけにもいかない。 私は意を決して立ち上がった。とにかく窓を全開にして、こもった空気を入れ換えると、昨夜脱ぎ捨てた白い制服を急いで拾い上げ、クローゼットに押し込んだ。自分の制服を20秒で着込み、襟元まできっちり止めた。とにかく体裁だけはなんとか繕って、ようやく玄関へ向かった。 「待たせて済まなかった。―――どうぞ」 「……すみません。失礼します」 ドアを開けて、中へ促したレイは、遠慮がちに足を踏み入れた。なぜか私の心臓は緊張で高鳴っており、そして、心なしかレイの頬が赤い…………ような気がする。 今日のレイは、私服姿だ。プライベートな用件だと判断した私は、ラウが浴室から出てきたら自分は席を外そうと思った。 それにしても士官学校の制服姿しか見たことがなかった私にとっては、とても新鮮だ。普段は、赤い制服に身を包み、毅然とした立ち居振る舞いのレイ・ザ・バレルを知っているだけに、私服姿のどこか頼りなげな細い肩を守ってやりたくなる衝動に駆られる自分を戒めた。あの人に外見はそっくりなのだから仕方がないとは分かっているものの、 お互い緊張しているようで、奇妙な間が空く。 「あの、ラウは……」 「え、あ、……ああ、今、シャワーを浴びて―――」 と言いかけて、はっとした。これでは、もう誤魔化しようがない。思わず自分の額を押さえた私をレイが見てクスリと忍び笑いを洩らす。 「あ、すみません……」 「いや、いいよ。そうだ、コーヒーでも飲むかい?」 話を逸らそうと、慌ただしくキッチンへ向かう。 「アデス艦長。あの……お気遣いなく」 「私もクルーゼ隊長に急用があって、先ほど来たのだが、あの通り寝起きが悪くてね。シャワーを浴びて目を覚ますと仰られて―――」 殊更、来たばかりだということを強調したのだが、わざとらしさばかりが目立ち、自分でも自己嫌悪に陥る。 「寝起きが悪いとは、俺も知りませんでした……」 「え……?」 誤魔化そうとすればするほど、墓穴を掘っていることに、私は全く気付いていなかった。二人して黙り込んでしまう。 「誰の寝起きが悪いって?」 「ラウ!」 「隊長!」 シャワーを浴びて濡れた髪をタオルで拭きながらラウが顔を覗かせた。振り向いた私たちの目の前にバスローブ姿で立っていたラウの首筋には濡れた髪がまとわりつき、滴が流れている。あいた胸元から首筋にかけて散らばる花弁のような色づきがのぞく。匂い立つような色香のせいで、昨夜の情事の痕跡は隠しようがない。 いたいけな少年の前で隠そうともしないラウをこの時ばかりは恨めしく思った。 「では、私はこの辺で……」 そそくさと席を立とうとした私をラウがにっこりと笑って呼び止めた。 「アデス、私を放って帰る気か?―――昨夜の情熱的なお前はどこへ行ったのかな?」 「たっ……隊長!!なんてことを……っ!」 焦ってラウの口元を手で塞ぐ。じゃれ合う私たちの様子をレイがじっと見つめていた。 「いいなあ……」 ぽつりと呟いた。 「え?」 「どうした、レイ?」 「……羨ましいです。とっても仲のよろしいお二人が」 「あの男と何かあったのか?」 ラウの問い掛けにレイは黙って俯いてしまった。 ラウが私に目配せした。しばらくの間、席を外そうとラウのコーヒーを煎れるためにキッチンへ行こうとした私をレイが止めた。 「ここにいてください」 「いや、しかし……」 私はラウの方を見て意見を求めたが、ラウは軽く首を振って私にも同席するよう目で訴えた。 「どうしたんだ? お前がここに来るなんて珍しい。アカデミーは今日は休校なのか?」 そういえば、アカデミーは基本的に全寮制だ。帰省するならば、保護者となっているデュランダル氏のもとへ帰るはずだった。 「創立記念日で昨日から明日まで休校です」 「ギルバートの所へ帰ったんじゃないのか?」 「ギル……は」 そう呟いたきり再び黙り込んでしまった。 ラウはレイの肩を抱いて、やさしく頭を撫でる。 「あいつに何かされたのか?」 「ちがう……」 「じゃあ、どうして?」 「何も…………何もしてくれないんです……」 気まずい空気が流れた。今度こそ、私は逃げたくなってしまった。まさか、こういう相談になろうとは予想していなかったからだ。 私とラウは顔を見合わせてしまった。 END 続くかも……? アデクルでちょっぴりギルレイかな。 ギルラウ前提のギルレイなので、ギルがラウに未練タラタラなまま、レイと一緒にいるという、煮え切らない感じのイメージです。 ※ブラウザのbackでお戻りください |