□ walk 







美しい人は立ち姿も歩く姿も美しい。

ザフトの白い制服を着た人物は、今日も周囲に清冽な印象を与えながら軍令部の廊下を歩いていた。
大戦後に仮面をつけなくなったことで、更にその姿と名を周囲に知らしめた英雄が白い制服の裾を翻して颯爽と歩く姿に、誰もが振り返った。




   ◇




「もっ…申し訳ありません!!!」

軍令部の士官専用ロビーへ至る階段の踊り場で、真っ赤になったり真っ青になったりしている少年兵が泣きそうな顔で頭を下げていた。

幸いロビーには人が少なく、それほど人目を引かないで済んでいたが、少年兵にとってはそれどころでなかった。
何しろ同期の少年兵とふざけていて階段を踏み外し、転げ落ちかけたところをザフトの英雄に抱き留められたのだ。
あっと思ったときには、目の前に白い制服があって、やむを得ない状況だったとはいえ、思い切りその胸に飛び込んでしまった。

段差のある場所なので体勢が少し崩れたが、一緒に転がるような無様な姿を晒さなかったクルーゼは流石と言える。
成長期の少年一人をとっさに受け止めたクルーゼは細い肢体に似合わず強健だった。階段の手すりで二人分の体重を受け止めたクルーゼの手にはいつもの白い手袋はなく、そのおかげで滑らずに支えることができたのかも知れない。

階下まで頭から落ちていたら大けがをするところだったので、少年兵は身体中に冷や汗を感じながら、大きく安堵のため息をついた。

「大丈夫か?」と、自分の身を案じる柔らかなテノールにはたと気付き、顔を上げた。

至近距離に美しい金糸に縁取られた白皙の美貌と怜悧な青い瞳があった。
白い胸の中でふわりと一瞬薫った香りに陶然としながらも、ぼーっと見惚れていた少年兵は、クルーゼの苦笑に我に返った途端、血の気が引いた顔で平謝りになった。連れの少年も必死に頭を下げていた。

憧れの人に思いきり触れてしまった少年兵は、穴があったら入りたい思いでいっぱいだったことだろう。ひたすら小さくなって、半泣き状態だ。



クルーゼが苦笑して少年二人を宥めていると、そこへ、先にロビーに出て車の手配をしていたアデスが戻ってきた。

「隊長、お待たせしました」

階段下から声を掛けたアデスが、少年二人の存在に気付いた。

「………どうか?」

「いや、なんでもない」

アデスの問いを軽く手を挙げて遮ったクルーゼが、少年たちに「今後、気をつけるように」と声を掛けて軽い足取りで階段を下りてきた。
その足取りを眺めていたアデスが突然、眉を顰めた。

「隊長?…………どうしたんです!?」

周囲を憚るように声を抑えて問いかけた。

「何が?」

アデスは、とぼけた口調のクルーゼをまじまじと見た。
普段と変わらぬ様子のクルーゼに深刻そうな顔で再び口を開きかけたアデスは、少年たちの存在を思い出し、口を噤んだ。

少年たちは、クルーゼの背を見送りながらその場を立ち去ることができず、敬礼したまま青ざめていた。
黒いザフトの制服は指揮官クラスのものだ。自分たちよりも階級が遙かに上の二人が揃ったのだから、少年たちの緊張は否が応でも増す。
更に軍帽のつばがアデスの顔に影を落としていたため、少年たちからは表情がはっきり見えず、随分と厳めしい印象を与えていた。そのせいか、怖そうな黒服の士官から叱責を受けると思った少年たちが首をすくめていた。
ところが、アデスの視線が少年たちに向くことはなく、クルーゼにだけ注がれていたため、少年たちは、一体何事かと怪訝な顔になった。

「隊長!」

眼だけで「なんでもない」と示したクルーゼは、アデスの視線から逃れるようにスタスタと歩いて行ってしまう。

「……行くぞ、この後、デュランダル議員に呼ばれているだろう? 早くしろ、アデス」

まるで何事もなかったかのように話すクルーゼだったが、次の瞬間、白い制服姿が宙に浮く。

「!? ―――アデス!」

驚いたのはクルーゼだけではない。少年たちも眼を丸くした。

突然、クルーゼがアデスに抱き上げられたのだ。

いくら細身とはいえ、クルーゼも立派な成人男性だ。しかもヴェサリウスの艦内と違って通常重力のある場所にもかかわらず、アデスは軽々とクルーゼを抱き上げてしまった。
流石コーディネーターというべきか、おそるべき膂力である。

「何のつもりだ!?」

怒ったようにアデスを睨み付けたクルーゼの言葉を軽く無視して、アデスが少年たちに視線を投げた。

「そこの君、伝言を頼む。外で待たせている車の運転手に、クルーゼ隊長は所用のため、出発を30分遅らせる旨、伝えておいてくれ」

「は、はい!」

突然の成り行きに戸惑うばかりの少年兵は、慌てて復唱し、ビシッと敬礼した。

「頼んだぞ!」

アデスの一声に即座に回れ右して一目散に走り去った少年兵は、二人とも顔を真っ赤にして、右手右足が同時に前に出ているほどの動揺ぶりだった。



少年二人の姿が見えなくなると、クルーゼが溜息をついた。

「もういい……早く下ろせ」

「駄目です。あなたはこのまま私と医務室へ行っていただきます」

クルーゼが驚いて目を瞠った。

「………よく……わかったな」

「足首ですね?―――捻挫ですか?……全く…何をなさっていたんですか、こんなところで」

半分呆れながらも心配そうなアデスの言葉に、抱きかかえられたままのクルーゼがなぜか嬉しそうに微笑した。

少年たちに少しも異常を感じさせない足取りで階段を下りたはずだったのに、アデスにはほんの数歩の歩みでクルーゼが足を痛めたことがわかってしまった。
アデスは、直感的に「いつもと違う」と感じたからだが、正直、不調を表に出さない上官には慣れていたせいもある。

周囲が気にしてやらないと、自分の身体にはとことん無頓着なクルーゼは、少しくらいの痛みや怪我ならば平気で通常任務をこなそうとする。実際、体調が悪くても、誰の目から見ても完璧に任務を遂行するのだから、皆が気付かないのは仕方のないことなのかもしれない。
だが、だからこそ、自分の見えないところで痛みを我慢したり苦しんだりしてほしくないとアデスは思うのだ。

「まさかバレるとは思わなかった」

「彼らは気付いていないと思いますよ。彼らの重荷にならないようにわざわざ平気な振りをされたんでしょう?」

「みっともない姿を晒したくなかっただけだ」

笑みを洩らしたアデスだったが、内心苦いものを感じていた。クルーゼが他人に弱みを見せるのをひどく嫌う性格なのは知っていたので、少年たちの前で足首のことを口にしなかったが、本当は少年兵に対して怒っていた。

「私としては、おそらく階段で巫山戯ていただろう彼らを一喝したかったですが……」

現場を見ていなかったはずのアデスが、少年たちの態度から状況を推察して、顔を険しくした。

「お前に怖い顔されたら、当分夢に見そうだから、やめておけ」

「そんなに怖い顔していましたか?」

「さあ?……どうかな?」

クスリと笑ってクルーゼがアデスの軍帽をはぎ取ると、するりと首に手を回した。

「隊長……」

「その顔、私は好きだがな」

こっそり耳元で囁くと、アデスは耳まで真っ赤になった。

「ご冗談を……」

いつもなら照れ隠しに軍帽を直す振りをするところだが、今はクルーゼに取り上げられてしまったので、なんとも落ち着かない。

「ふふ……お前の困った顔を見るのも好きだな」

「隊長………」



愉しそうに笑うクルーゼに、アデスは諦めたようにため息をついたのだった。


  








END



one-colorの真夜さまからいただいたあでくる抱っこイラストですv 
イラストを初めて見た時、あまりに興奮して、アデスのかっこよさにめろめろになったので、勢い余ってイメージ小説なんかを書いてしまいました。 白と黒の対比にものごっつ萌えました!

どんな状況で抱っこされる隊長に萌えるかなーと自分なりに考えてみたんですが、二人きりの甘い時間に抱っこもいいけど(例:ベッドまで抱っこで運ばれる隊長とか…)、人前でいきなり抱き上げられるというのは、ちょっとビックリで萌えるかもと思ったので、衝撃の瞬間の目撃者をいたいけな若いザフト兵にしました。 或る意味、この少年二人は被害者かもしれないですね(笑)。
いつもは人目を気にするくせに隊長のことが心配だと驚くほど大胆になるアデス。 あのたくましい腕に抱き上げられた隊長のすらりと伸びた足とか、ブーツとか、その踵とかに心ときめくのは私だけでしょうか……? 

このあと、軍令部内を驚愕させながら医務室まで連れて行かれる抱っこ隊長。
医務室へ行ったらちょうど軍医がいなくて、アデスが治療(応急手当)することになりそうです。たぶん軽く捻った程度なので、湿布だけするんじゃないかと。
隊長のブーツを脱がせて、素足の足首に触るアデス………っていうのも萌える! 
きちんと全部制服着たままで、足だけ素足って、こう……何かかきたてられるモノがありますね!(ブルブル)
なるべく隊長を歩かせないようにするために今日一日抱っこ――――というわけにもいかないので、仕事中はさりげなく手を貸すんじゃないかな。人目のないエレベーターの中ではアデスの胸に寄りかかるせるとか、移動はなるべく非常階段とか使ってアデスが抱き上げちゃうとか……。艦内勤務なら無重力だから足には負担がかからないけど、陸上勤務だと辛そう……。でも、あんまり構うと隊長はへそ曲げるので、ほどほどに(笑)。
仕事がオフになったらもう、ずーっと抱っこだと思います。



真夜さん、こんな抱っこシチュエーションになりました。
あー……ラブラブって言えるのかどうか……甚だ不安ですが……すみません、よろしければもらってやってください〜。



2006/08/26




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