脳裏にフラッシュバックする数々の光景。
そのどれもが鮮明で、それゆえに苦しくて。

緑に囲まれた屋敷の中で、幼いラウを見つめ返す青い瞳。不思議そうな顔。
月面のクレーターでの運命の再会。だが、相手はラウのことを知らない。
闘いの中で、無機質な機体越しに互いの存在を感じ合うことができるほどの能力を持ちながら。
その後、今はないコロニーで、運命の歯車は急速に動き始めた。
好敵手、いや、それほど美しい関係ではない。

宿縁。
唾棄すべき宿縁の相手、穢れた血の枷、柵(しがらみ)。呪い。

ラウにとってムウは目障りな存在であり、過去の象徴だった。
「未来」ではあり得なかった。

自分の存在を消したくて、過去の消滅を願った。この手で、滅ぼしたかった。

この血に連なる全ての者を。

そして憎しみを募らせた。
全ての者への。
自分を生み出したこの世界への。

それでも、希(こいねが)っていた。
自分をこの苦しみから解き放ってくれる存在の出現を。
それが、呪わしい宿縁の相手なら納得もできた。
だから、自らの運命を贄として差し出し、賭をした。

―――自分を止められなければ、世界は滅びる運命だったのだ。

そう思った。
一縷の望みを込めた賭。
数え切れぬほどの絶望を味わってきた自分が最期に願ったこと。

(誰か私を殺してくれ! でなければ、全てを滅ぼすこの想いは止まらない)

それなのに、望みは裏切られた。あれほど待ってやったのに。
一度目は、へリオポリスで、二度目は、メンデルで。
三度目は、ヤキン・ドゥーエで。

(貴様に討たれるなら本望だと思った)

しかし、望みは突然断ち切られた。

最終戦、ヤキン・ドゥーエにて、目の前に漂うストライク・ガンダムの残骸。
ムウの機体を見た瞬間、失望した。

お前では、なかったのか――? と。

その想いに動揺した。可笑しかった。
まるで、自分を止める者が、ムウであって欲しかったと言っているようだと。

だが―――失望が、最期の絶望に変わる直前、希望の光を見た。
呪わしいほど羨望した一人の少年の手によって―――。

ムウではなく―――あの少年、キラ・ヤマトによって。

「止められなかったくせに………なにを今更っ!」

胸の奥から吐き出した言葉が掠れた。

ムウの顔をした男は、その言葉を黙って受け止めた。







 
「もしもBOX完全版*後編」より抜粋





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