※捏造注意
※時間的には物語終盤くらい……だといいな。









月明かりが、地面に蒼い影を映し出し、
全てのものを蒼く、青白く、ほのかに照らす。

それは、冴え冴えとした月光に、全ての罪が暴かれる瞬間。

だから私は畏れる。
月の光にも似たあの方を―――――。








++月下++








天空には月が見える。
回廊の柱が長い影をいくつも地に落とす中、
ゆっくりと足音がこちらへ向かって近づくにつれて、人影が現れてはまた消える。

その人は、歩みとともに光と影とを交互に渡って来る。
柱の陰に入ってしまえば闇と同化し、月下にあっては、冴え冴えとその存在を示す。

静まりかえった離宮で、ただ、その人の声だけが静かに響く。
逃れられないほど、自分を縛る力を持ったその人の声。
その口から語られる真実。 
帝国の闇――――。



「私が、なぜ真実を知ったコーネリアを更迭しないのか、わかっているのかい?」



その人は穏やかに、男に問いかける。



「殿下……」



喉の奥に何かがつかえたように、男の声が掠れた。

影から現れたその人の髪は、月明かりのせいで蒼く染まっている。
風が蒼く染まる髪をなぶる。
本来なら淡く金色に輝く光のようなその髪を……・。



「お前がコーネリアの騎士だからだ」



そう口にした影は、この国の第2皇子の姿をしていた。

第2皇子でありながら、皇帝に継ぐ権力を持つ「帝国宰相」。

次の帝位に最も近い者。


皇位継承を争うのはブリタニア皇帝の血を受けた者としては当然の『義務』だった。
だが、第2皇子と第2皇女、この二人の間には、これまで諍いめいた噂など無く、お互い皇族としての立場を自覚し、それぞれに優れた才能を発揮して、この国を支えていた。

兄妹で足りない部分を補いながら、国の重鎮として、ブリタニアを支える――――?
これからもずっと―――――?

いや、この関係がずっと続くことなど、あり得ない。
それを知っているからダールトンは今ここにいるのだ。


コーネリアは優れた武人だ。
その確固たる地位を築いたのは、コーネリア自身の実力の他に、優秀な部下に恵まれたことがあげられる。
コーネリアの傍らに常に控える親衛隊の中でもダールトン将軍と騎士ギルフォードの名と、その勇猛果敢さは内外に知られており、中でもコーネリアの戦略の師でもあり、猛将としてその名を知らしめているダールトンは、コーネリアの軍にとってなくてはならない人物だった。



「私は宰相として、コーネリアにこれからのブリタニア軍部を指揮させるつもりだ。 
だが、それは―――ダールトン、お前がコーネリアに付き従っているからだということを忘れてはいけない。 ――――私の言っている意味がわかるね?」



優しげに、諭すように響く声。
その声音とは正反対に冷酷なことを言うその唇。




――――――お前が、コーネリアを監視するのだ。




シュナイゼルは、そう言っているのだ。

コーネリアが兄の意思に背かないように、

そして、帝国の真実を口にしないように。

言葉の意味することに気付き、ダールトンは青ざめた。



「シュナイゼル殿下、私に姫様を裏切れとおっしゃるか!」



ダールトンの憤りは、青く澄んだ冷たい瞳に受け止められた。
シュナイゼルの怜悧な美貌がいっそう凄味を増し、彼の口角が微かに上がった。
微笑と言えるほどのあたたかみを何ら感じさせないその口元からダールトンは目が離せない。
再びどんな残酷な言葉を紡ぐのか、彼のその唇は――――。



「裏切る? そうではないだろう? ……お前の愛するコーネリアを守るのだ」



男は惑乱する。
たった数歩の距離にいる相手の存在が遠く感じられた。
それなのに言葉だけはやけに近く聞こえるのだ。
まるで耳元で囁かれているように………。



「守る……?…………一体……誰から?」



その単語の意味が理解できないとでも言うように呆然と繰り返した。



「彼女を狙うのは、世界の三分の一を支配し、第98代皇帝ルイツ・ラ・ブリタニアの名の下、何十億という臣民と18もの属領を統治し、支配する、この神聖ブリタニア帝国宰相だということを忘れるな」



シュナイゼルの口から飛び出した言葉にダールトンは戦慄した。

矛盾している。
シュナイゼルは、自分自身の手からコーネリアを守れと言うのか。

男の背に冷たい汗が流れた。



「情に篤いコーネリアの騎士であるお前ならば、わかるだろう?」



聞き分けのない子どもを諭すように、言葉が男の頬を撫でる。



「私もできれば妹には手をかけたくない。だが、宰相としての立場からあれを見逃すことはできない。だから―――――」



何十人といる皇族の一人として、政治と貴族社会の中で生きるには、私情の一切を廃し、時には非情なまでの決断を強いられる。それが、あのブリタニア皇帝の息子であれば当然だった。

力無き者は去れ………弱者は、生かされるだけの存在でしかない。
自ら生きるには、強くあらねばならない。

自らを戒める呪文のように、幼い頃から植え付けられたその哲学は、彼という肉体の血に浸透し、身体の隅々まで、髪の毛の一筋に至るまでに行き渡っていた。
そして、その心の奥にまで染み込み、覆い尽くすかに思えた。



握りしめた手の内にじっとりと汗をかき、男は、たった数歩の距離に立つ『皇族』を見た。
暗闇の中で彼の瞳だけが男を射抜き、抗うことを許さないという意思をぶつけてくる。


だが、次の瞬間、ほんの一瞬だけ、その瞳の力が緩んだ。







「お前が―――――私の枷となれ」







最後にうっすらと微笑んだシュナイゼルの顔が青白く映る。

ダールトンの目が大きく見開かれた。
その口元の微笑は、昔見たあの微笑みと同じものだった。


  『……お前は……………なのだな』


あの時、少年の口から洩れたのは、ただ気紛れに呟いたような言葉だった。
聞き逃すほどの小さな声で。
けれど、たった一人の耳には明確な意味を持つ言葉として――――。
感情を押し殺した口調とは裏腹にその瞳が揺れていた。
それでも、その少年は、自身の誇りと立場ゆえに弱さを見せることは許されなかった。
少年自身が自分を許せなかったのだと、今にしてみれば思う。
だから、微笑した。

ダールトンは、その笑みを見たとき、子どもにあんな表情をさせてはいけない……と強く思った。そうだ、あの一瞬、自分はほんの少し後悔したのだ。


そして、今、顔の古傷がじくじくと痛むのは幻覚だろうか。
全ての感覚が曖昧で、自分が立っている場所が分からなくなりそうだった。


気が付けば、数歩の距離にいたはずのその人が、すぐ目の前にいた。

その傷跡に白い指が伸びる。

冷たい指先が触れ、痕を辿り、乾いた男の唇を閉ざすように指がなぞる。







「何か最善の道か考えよ。猛将アンドレアス・ダールトン」







シュナイゼルの口元に酷薄な笑みが浮かぶ。

冷たい唇が男のそれを塞いだ時、ダールトンの心は決まっていた。










End

2007/03/14






ぎゃー!ものすごい捏造!
こんなダルシュナ関係だったらいいなv っていうどにの妄想を忘れない内に書き留めておくつもりだったのでメモ程度の内容になりました。
ごめんなさい!ごめんなさい!(汗)。

たぶんこの後、二人は、口止め&契約も兼ねて、情事に突入するハズ。
その辺はまた今度! いずれ濡れ場は書きたいトコロですね。

えー、このお話は、事情があっていろいろ説明を省いています。
ちゃんとしたお話にするとなると長編になってしまうということ。
そして、今は、いろんな殿下が書きたいので、一つのものに集中できないということ。
なので、とりあえず今は、ここまでです。
こんな暗い話を読みたい人が自分以外にもいれば書こうかな(笑)。



『欲しかったものが手に入らなかった時、人は諦めるか、それとも……。』

ってな感じで!……書き逃げします!



殿下は二面性のある人だと思います。
お日様の下でぽかぽかひなたぼっこの似合う殿下とお月様の下で悪巧みしている殿下。
どっちも殿下だから好きなのかな。