| ++白絹++ 浮遊航空艦アヴァロンには、シュナイゼル皇子の執務室がある。 戦艦としては、異例のことだが、いざというとき、前線で指揮を執りながら本国での政務もこなさなければならないお忙しい宰相閣下の持ち船としては、当然の構造だった。 限られた艦内の空間で、ここまで広い執務室が必要なのかどうかは疑問だが、宰相という立場上、ブリッジクルーには聞かせられない政治的な話をする場所が必要で、当然、その場所は限られてくる。 執務室と言っても、すぐ次の間は寝室を含む皇子のプライヴェート空間だから、第2皇位継承者の部屋としては質素だと言えるだろう。 普段、執務室にいるときは、セキュリティ上の配慮もあり、常にシュナイゼルの騎士か秘書官がすぐ傍にいるのだが、今は人払いをしてある。 部屋にはシュナイゼルと、部下であり特別派遣嚮導技術部のロイド・アスプルンド伯しかいなかった。 「失われた古代文明への挑戦ですか……。神根島の遺跡、攻略作戦、帝国領土拡大、天領……殿下、巻き込みましたね」 執務室には、応接用の立派なソファとテーブルがあるのだが、それは使われることなく部屋の中央に鎮座していた。 執務中だった部屋の主は、当然のように自分の椅子に座って、書類に目を通しているのだが、来訪者は部下が通常いるべきはずの場所には立っていなかった。主のすぐ横にいてシュナイゼルとは反対の窓側を向いている。 さらに困ったことに、立っているのではなく、執務机にちょこんと腰掛けているのだ。 お行儀が悪いどころの状態ではない。 部下と上官が、いや臣下と皇族が会話するときの姿勢ではない。 側近のバトレー将軍が見たら目を剥いて怒鳴りそうな光景がそこにはあったのだが、主であるシュナイゼルは何も言わず、ロイドの好きにさせていた。 「ふふ。専門外という割にしっかり分析しているじゃないか」 「これだけ、妙な符丁があれば、嫌でも勘ぐりたくなりますよ」 「では、特派は一蓮托生ということでいいかな? ランスロットのパイロットも現場に居合わせてしまったし」 「最初からそのおつもりでしょ。あーあ、ガウエィンも持っていかれちゃったし」 ロイドが肩をすくめため息をつく。 実際、古代文明など、あまり興味はない分野だ。ロイドの態度からありありとその気配が感じられて、シュナイゼルが苦笑する。 「あれは、試作機だと言っただろう? また造ればいい」 「簡単に言ってくれますね。あれの開発、ご実家のお力でしょ。アッシュフォード家が舞台から降りちゃったから、彼らの独壇場ですよねぇ。まあ、僕もお年寄りや病人の介護をする医療用ナイトメアなんてつくりたくないですけどね」 「よく、喋る口だね」 「塞ぎたいならご自由にどうぞ」 拗ねた口調で、そっぽを向いたロイドにシュナイゼルが小さくため息をついた。 どうやら、ガウエィン搭載兵器の理論構築と設計に携わりながら、実際の開発に参加できなかったことを拗ねているらしい。 「ああ、でも、セシル君には内緒にしてください」 「ふうん?」 いつになく厳しい視線を送ったロイドに、シュナイゼルが意味ありげに口元を緩めた。 「君がそんな顔をするなんて、少々妬けるね」 人目がないのをいいことに、第2皇子殿下の執務机の縁に腰掛けて、だらしなく足を揺らしているロイドは、悪びれもせず言った。 「何言ってるんですか、帝位争いに下々の者を巻き込まないでくださいって言ってるんですよ。僕等はナイトメアつくれればそれでいいんですってば」 シュナイゼルの眼がすっと細くなる。 「ロイド」 シュナイゼルのひやりとした声音に「はい?」と暢気に答えて、ちらりと主の顔色を窺う。 相手の気に障ることを承知でわざと煽るようなことを言うのは、ロイドの悪い癖だ。 シュナイゼルの青紫の瞳と視線が絡む。 しばらく無言で互いの目を見ていたが、先に降参したのはロイドの方だった。 「………はいはい、わかってますよ。あなたと僕は一蓮托生――――でしょう?」 肩をすくめて答えると、「よいしょ」と勢いをつけて机の上から床に下りた。 「よく――――わかっているじゃないか」 シュナイゼルが満足げに微笑んだ。 その笑顔を横目で捉えて、ロイドがわずかに片眉を上げる。 「殿下」 言うなり、シュナイゼルの襟をスカーフごと掴み、自分の方へ向かせると、噛みつくように口づけた。 唇は一瞬で離れたが、掴んだ襟元は縒れ、綺麗に整えられていたスカーフが乱れる。 「時々、その綺麗な顔が無性に憎たらしくなりますよ」 そう呟くロイドの眼鏡にシュナイゼルが手を伸ばすと、するりと慣れた仕草で眼鏡を外し、机の上に置く。 「君の方こそ、無体な真似が上手くなって」 シュナイゼルがクスリと笑う。 ロイドは無言で乱れたスカーフに手を伸ばした。 直すのかと思いきや、布を乱暴に引っ張った。衣擦れの音を残して、解かれた白い絹のスカーフが抜き取られ、床に落ちた。 普段、人の目に晒されることのない、第2皇子の喉元にロイドが手を滑らせた。 シュナイゼルの肩が微かに揺れたことに、ロイドが口角を上げた。身を屈めて、露わになったシュナイゼルの白い喉元に顔を埋めると、唇を這わせた。肌の上をたどる、濡れた熱い感触にシュナイゼルが眉を顰めた。 「……っ」 微かな痛みが甘い痺れと共に首筋に走り、シュナイゼルの口から小さく声が洩れると、主の喉元に赤い痕跡を残したロイドが、顔を上げた。 「……ひどいな。妻にどう言い訳すればいいんだい?」 ため息をついて、首筋をさするシュナイゼルに向かってロイドが意味ありげに微笑む。 「どうせ、しばらくお会いになれませんよ。片が付くまでこっちにいらっしゃるんでしょ」 しばらく本国には戻れそうもないことは、分かっていた上での振る舞いだ。 相手の身体に痕跡を残すことへの淫靡な悦びと、それを隠し、何喰わぬ顔をして日常を過ごすことへのスリルと快感。お互い、胸に秘めた想いを隠し、言葉で相手を煽ることに歓びを見出す厄介な性分だった。 ロイドは自分の眼鏡をかけ直し、床に落とした絹を拾い上げた。 「そのままじゃ、お仕事できませんよね」 ひらひらと白い布を振りながら、寝室に繋がる扉へと向かい、その前で立ち止まると振り返ってシュナイゼルを待つ。その姿が、散歩の時間に喜んでご主人様が来るのを待っている犬のようで、シュナイゼルはつい笑みが洩れてしまう。 「君が、独り寝の寂しさを紛らわしてくれるわけかい?」 やれやれと苦笑混じりのため息をついて、立ち上がったシュナイゼルはゆっくりとロイドに歩み寄った。 ロイドは、白絹を掴んだ手を胸に当てて一礼すると、恭しくその扉を開けたのだった。 End 2007/03/12 ロイシュナ……だよね?(不安) いちゃいちゃロイシュナ第2弾です。今回は、人目はないけど、あり得ないほどの主従の馴れ合いっぷりをどうぞ。 自分では、ロイシュナを書いている気でいるんですが、シュナロイに見えなくもない……(苦)。どうにもこうにも、この二人の腹のさぐり合いみたいな関係が萌えるらしい。 そして、シュナ様のお衣装が、ストイックであればあるほど、全力で乱したい欲求に駆られます。きちんと閉ざされた襟元ならば、はだけてあげるってのが礼儀ってモンでしょうv 殿下は、妻子持ちだといいな。子がなくても妻はいそうな気がする。もちろん、政略でv いいですね、妻帯者との不適切な関係って……(笑)。 そして、殿下の騎士はいつ出てくるんだろう。 騎士達の嫉妬の視線をものともせず、常にマイペースで、逆に煽ったりしそうなロイドにも萌えそうだ。 back |