【宰相閣下のブリタニア宮廷内での会議の席順に納得がいかないという件について自分なりの解釈とダルシュナフィルター発動】  ← タイトル

※24・25話ネタバレ&捏造






++疑惑++




「兄上、私が行きましょう」

ブリタニア本国にある宮廷内会議室。
第一皇子を上座に据え、コの字形の会議机には緊急に招集された重臣達が居並ぶ。
混迷する戦局に様々な思惑が絡み、焦燥感と無責任な感情が占めていた会議室にその声は涼やかに響いた。
エリア11への司令官の派遣について揉めていた重臣達のざわめきが、たったその一言で治まった。

「そうか、行ってくれるか!」

シュナイゼルの言葉に第一皇子オデュッセウスが喜んで身を乗り出す。

「人が殺し合うなんて悲しいじゃありませんか」

切なげに眉を寄せ、そう静かに言ったシュナイゼルに諸侯の視線が集中する。
皇帝不在のため第一皇子が議長を務めるこの庁議で、第二皇子であり帝国宰相でもあるシュナイゼルはなぜか臣下の席に座っていた。
この場を収める能力を持ち、かつ最も発言権を持つ人物が列席の諸侯の中に混じり、会議参加者の一人として甘んじていることを不思議に思う者がいることは確かだった。だが、それは、兄である第一皇子を立ててのことで、宮廷内の序列と、それを見た者の感情を弁えた上での配慮だとも言えた。
しかし、兄弟でも統治者としての能力の差は歴然で、誰もが煮え切らないオデュッセウスの態度に苛立ちを感じ始めていた絶妙のタイミングでその人物は立った。
おかげで、シュナイゼルとオデュッセウスの資質の差が諸侯の目にははっきりと映ってしまう。それもすべてシュナイゼルの計算なのだろうか。

穏やかな微笑と流麗な言葉に己の思惑を隠し、会議の流れを自分の思うように操る手腕。それを決して兄には悟らせない演技。幼い頃から培われてきたその技は、すでに自分の一部となっていて、シュナイゼル自身は演技をしているという意識はない。
海千山千の重臣の中にはシュナイゼルの微笑の裏にある思惑を察している者もいるかもしれないが、皆がこの穏やかな物腰と冷静な判断力に容易く惑わされた。
この会議室では、前線に送る責任者の人選に悩む兄を助ける弟――――という美しい構図ができあがっていた。

「ユフィの件は、コーネリアの失態だとはいえ、そのままにするわけにもいかないだろうし、君が行ってくれるなら安心だ。エリア11は中華連邦に対しての橋頭堡だから、武官だけでは心許ないと思っていたところなんだ。軍略の才もあって外交に長けた君なら何も心配はいらないな」

見るからに安堵してオデュッセウスが、弟を褒める。
その言葉を謙遜するでもなく受けたシュナイゼルが穏やかに微笑した。

「兄上は本国にて吉報をお待ちください」

優雅に一礼してシュナイゼルは会議室を後にした。
部屋の外にはシュナイゼルの側近や騎士達が居並び、主が出てくるのを直立不動で待ち構えていた。重厚な樫材の扉から現れた主はただ頷いて見せただけだ。シュナイゼルの有能な部下達は、何も語らずに主の意を察してすぐに動きだした。皆、会議の結果がこうなるとわかっていたかのようだった。
会議室を出たシュナイゼルは、足早に廊下を歩きつつ矢継ぎ早に指示を出す。

「太平洋艦隊をエリア11へ向かわせる。全軍、伊豆大島沖15qの海域に集結。空挺部隊は先行し、政庁の援護にまわらせるように。ああ、それからグラストンナイツと連絡は取れるか」

「はい、現在のところ通信妨害はされておりませんが、援軍に向かった佐渡と鳥島の航空部隊が全滅したとのこと。敵はハドロン砲を使用した模様です」

「佐渡と鳥島の援軍が全滅したとなると、コーネリアは少し苦しいだろうね。……ガウェインか……、厄介な相手に渡ったものだ。―――だが、たった一機で戦況を変えられるほど甘くないことを教えてあげよう」

非常事態に慣れた軍人達でさえ、今回のエリア11における反乱には動揺していた。
慌ただしく動き出した部下達の中で泰然と構えている第二皇子の姿が、混乱した状況下では頼もしく目に映った。
宮廷服に身を包んだシュナイゼルの手首がひらめく。
そのしぐさだけで、部下達の気持ちは引き締まった。

「ブリタニア正規軍の前に敵はない」

まるで宣誓文を読み上げるような朗々たる声がその場を支配し、シュナイゼルがテールコートの裾を翻す。

「イエス、ユアハイネス」

一同は、胸の前に腕を掲げ揃って主の命に「諾」と応えた。












宮廷を出てから1時間も経たない内にシュナイゼルは機上の人となっていた。
先行する太平洋艦隊に合流するため、軍の専用機で本国を出国した一行は、艦隊と連絡を密に取り合い、一路エリア11を目指していた。
機内では、次々にもたらされる戦況報告を戦術解析班が分析をし、シュナイゼルに逐一報告している。

「現在までの戦況と被害状況を」

シュナイゼルの言葉に通信士官が報告文を読み上げた。

「各地で守備隊が敗退しております。トウキョウ租界の政庁を中心に最後の防衛戦が築かれている模様。つい先ほど入った情報によりますと、コーネリア殿下が負傷されたようです! ただ、お命に別状はないとのこと」

「コーネリアが……そうか、ナイツや彼女の騎士たちは動揺していないか?」

「殿下が、士気の低下をおそれてご自分の負傷を伏せられたそうにございます」

「彼女らしいな…。コーネリアの側近たちの戦力はどのくらい残っている?」

「ギルフォード卿は健在。現在、グラストンナイツと共に政庁を防衛中です!」
読み上げた電文に更に最新情報が追加され、通信士官が慌ただしく確認をしていたが、その声が急に上擦ったものに変わった。

「――――ダ……ダールトン将軍が政庁にて戦死! あ、いえ……これは……」

「なんだと!?」
「将軍が!?」
その報告にシュナイゼルの側近達は息を呑んだ。
勇猛で知られたダールトン将軍さえ、戦死という事実に、事態の重大さを思い知らされたのだ。

「将軍は、行政特区日本の式典中にユーフェミア皇女殿下に撃たれて生死不明だったのではなかったのか!?」

口々に疑問を投げかける部下達の声。
一方、ダールトン将軍戦死の報を受けたシュナイゼルは冷静だった。少なくとも側近の目にはそう見えた。


周囲のざわめきがシュナイゼルの耳から遠ざかっていく。シュナイゼルの目には、惑う側近達の姿が映っているのだが、彼らの存在がどこか遠くに感じた。
これは、現実世界と隔絶された者が抱く感覚なのだろうかとシュナイゼルは頭の片隅で思った。

(……単機、政庁へ戻ったのだろう。怪我をおしてコーネリアの元に―――)

シュナイゼルの表情は変わらない。
モニターに注がれた視線は揺るがない。
だが――――白い手袋に包まれたその手はきつく握りしめられていて―――。

「そう……か……」

シュナイゼルは、ただ、溜息のような一言を洩らし、ダールトンらしい死に様にどこか諦観を覚えた。自分が手に入れられなかった者の最期を聞き、それがコーネリアのための死だろうということにどこか諦めのような気持ちになったのだ。
急に身体中の力が抜けていき、自分が今なんのためにここにいるのか分からなくなった。永遠に失われた者に対する喪失感を何で埋めるべきなのか、その答えを探す気力すら削がれてしまう。いずれこうなるとは分かっていたはずなのに、どこか未練が残るのは、己の欲の深さ故だろうか。
深く沈んでいく思考を側近の声が呼び戻した。

「では、将軍は、コーネリア殿下を身を挺してお護りになられたのか……」

「い、いえ………それが……・ダールトン将軍の謀反です!」


今、なんといった?


シュナイゼルの目が見開かれた。

「ゼロと対峙されたコーネリア殿下のグロースターを将軍自らがランスで貫かれたそうです! 信じ難いことではありますが……」

「馬鹿な……!」
「誤報ではないのか!?」

側近達の口から次々と驚愕の叫びが上がった。



「………まさか……」
思わずシュナイゼルの口から零れた言葉。めったに感情を露わにしない主の呆然とした口調に通信士官が更に苦渋に満ちた一言を付け加えた。

「音声記録も残っております。これでは……聞き間違えようもございません……」

士官が拳を震わせてようやくその一言を吐き出した。


(ダールトンが……あの男が最愛のコーネリアを自ら手に掛けただと!?)


シュナイゼルには到底信じられるものではなかった。
そして、ふと気付く。これと同じようなことが過去に何度かなかったか……と。


(そうだ―――)


一人目は枢木スザクだ。


(あれは、イレギュラーではなかったのか……)


式根島での準一級命令違反。ロイドから聞いていた彼の性格と生い立ちからは予測不可能とまでは言わなかったが、それでも本人に命令違反の記憶がないと言う。
そして、二人目はユーフェミア。彼女の性格から絶対にあり得ないと思っていたこと。それが覆されたのは、つい先ほどのことだ。ユーフェミアの性格までを考慮に入れた自分の策が崩れた現状を信じられぬ思いで見たばかりだった。


(いや―――二人だけはない。これはもっと前から始まっていたことなのか? まさか、クロヴィスも…………)

ギリリと奥歯を噛みしめた。シュナイゼルの疑念は膨らむばかりだ。
だが、戦時下でそう物思いにふけっているわけにもいかない。今は、自分の個人的な感情よりも他にやることが山ほどあった。


「コーネリアの保護ができ次第、政庁の守りを優先させるように。指揮は、ギルフォード卿に取らせる。援護はグラストンナイツがするだろう、いや……既に動いているはずだな」

「はい。太平洋艦隊の到着まで75時間と連絡済みです」

「では、彼らの不安の一つをなくしてやろう。中華連邦はこちらで押さえる。ナイツには太平洋艦隊が到着するまで、なんとしても保たせるように。―――佐世保沖の守備艦隊を東シナ海に展開させる。ただし、領海内でだ。こちらから手を出す必要はない」

「各ブロックでの反乱の鎮圧はいかがなさいますか?」

「一旦陣形を立て直す。戦力を温存し、鎮圧部隊を退かせよう。関東ブロックの治安回復を最優先とする。関東ブロックでの反乱が失敗したとなれば、彼らにどうすることもできなくなるだろうからね。援軍が到着するまで政庁の守りが保てば勝てる相手だ。後は―――中華連邦とEUの方を警戒するべきだな」

「了解しました」

部下達が慌ただしくシュナイゼルの命令を各方面へ伝えた。
軍最速の専用機でも太平洋艦隊と合流するまでにまだ数時間ある。

シュナイゼルは、おおよその指示を出し終わると再び椅子に深く腰掛けた。
これからが正念場だというのに既に何かが終わってしまった感が否めない。乱れた思考を整えようと深く深呼吸した。
側近の一人が心配そうに主の様子を窺い、ひと息つけるようにと温かい紅茶を淹れて差し出した。ダールトンと言えば、幼い頃からシュナイゼルやコーネリアの軍略の師でもあったのだ。信頼する人物のまさかの離反、そして死。その事実に動揺するのも無理はないと思ったからだった。

いつものように優雅にカップを手に取ったシュナイゼルだったが、視線は紅い液体に注がれていた。紅茶の芳香すら今は何も感じることができない。
ダールトンの死に予想以上にダメージを受けている自分を内心で嘲笑しながらも、自分の与り知らぬところで動き始めている「何か」の存在が気になった。

シュナイゼルはカップに口を付けずに、そのままテーブルに戻すと、指先で前髪を払うように軽く額を押さえつつ、深く息を吐いた。



「殿下、艦隊との合流までまだお時間があります。少しお休みになられては……」

控えがちな進言にシュナイゼルが首を振った。


「すまないが……ダールトンの最期の言葉を聞きたい。グロースターの音声記録を―――」


側近はそれ以上は何も言わず、ただ黙って一礼する。




テーブルの上では、血のように紅いアッサムティーが白い湯気を立てていた。







END 
2007/08/31




24話。宮廷内会議室でのシュナ様の席順に大いに納得がいかない……というか、宰相というご身分の本国での評価が疑問になったので、いろいろ考えてみたけど、結局、どう考えても無理があることに気付きました。臣下の中では、普通、宰相ってトップじゃないのか。お兄ちゃんが上座なのは分かるけど、なんで弟が(しかも宰相)が席順上から数えて7番目なんだ!納得いかん。
でも、シュナ様のあの席は、会議に出席している人達全員の様子や顔色が分かる位置でもあるので、やはりシュナ様は侮れないとも思った。
さて、ダルシュナフィルター発動のSSでしたが、ダールトンってギアスの被害者として認識がされるかどうか悩みどころでした。たぶん、ユフィがああだったので、「謀反」または「乱心」、「反逆」という汚名を着ることになるかと思うといたたまれない……(涙)。 でも、「あり得ないこと」が本人の意思や人権を無視して起こる、いや起こさせられることにシュナ様がこれで気付いてくれたらいいなとも思う。 あの反則技をだれか、なんとかしてください(泣)。