++第19話 「ちょっと野暮用〜」 のその後++






「相変わらずですねぇ。枢木スザク少佐は一応ウチの大事なパーツなんですけど」

バトレーを下がらせて二人きりになった部屋で、ロイドが楽しげに口元を緩めた。

「あの程度で、やられるならそれまでということだろう?」

シュナイゼルは、口元に穏やかな微笑を湛えたまま、執務机の上で手を組んで目の前の男を見上げた。

「まあ、そうなんですけどね。今のところ、彼以上の素材がなくて、いなくなると少し困るんですよ」

「君こそ、随分ご執心じゃないか」

「あは、妬いていらっしゃるとか?」

巫山戯た口調のロイドとシュナイゼルの視線が一瞬絡む。
すぐに視線を逸らし、シュナイゼルが小さく息を吐いた。

「そんなことを言う前にやることがあるんじゃないのかな」

「そうですか〜?」

相変わらずロイドの口調はのんびりとしていたが、眼鏡の奥の瞳からは、どんな感情も読めない。
くすり、とシュナイゼルが忍び笑いを洩らした。

「ロイド」

「はい?」

「許す」

何を……とは言わなかった。
相手も、何を……とは聞かなかった。



テーブルを挟んでシュナイゼルの向かいに立つロイドが、身をかがめて、両手をデスクの上につく。

「では、失礼して……」

ロイドは身を乗り出すようにして顔を寄せ、整った顔立ちの自国の第2皇子の顔をじっくりと眺めた。
明るい金色の髪に縁取られた端正な顔立ちは、決して女性的ではない。
怜悧な美貌に、穏やかで洗練された物腰のブリタニア帝国第2皇子。
女性達にとって、外見だけは理想の「王子様」だ。

間近にあるロイドの無遠慮なまでの視線に臆することもなく、シュナイゼルの青紫の瞳が目の前の男の瞳をじっと見返していた。

「殿下……」
ロイドは苦笑混じりの溜息をついた。

「こういう時は眼はつぶるものじゃないですかぁ?」

「そうだね」

言われるままに眼を閉じたシュナイゼルの顔を再び間近に眺めて、「相変わらず無駄に綺麗な顔ですねぇ」と頭の片隅で思った。


ロイドは、更にデスクの上に身を乗り出す。
書類など一つもない、きちんと片づけられた執務机の上に影が落ちた。

目を閉じたままのシュナイゼルの額に、一瞬、何かが軽く触れたような気配がして、それは、すぐに遠ざかった。

「……なんだい、今のは?」

眼を開いたシュナイゼルが、何とも言えない複雑な顔をしていたのが可笑しかった。
額へのキスはどうも不満らしい。

ロイドがにまりと笑う。
「愛情表現v」


ここまでお膳立てをしてやりながら、相変わらず人を食ったような態度のロイドに業を煮やしたのか、シュナイゼルが、立ち上がる。

ロイドの眼鏡を奪うと、放り投げた。
それは、毛足の長い絨毯の上に落ちたので、壊れることはなかったが、シュナイゼルの苛立ちが相手には十分伝わるはずだった。
「酷いなあ」
案の定、大して気にもとめずに呑気に呟いたロイドの胸倉をシュナイゼルが掴み、引き寄せると、乱暴に口づけた。

「……ン」

濡れた音を立てて舌を絡め、深く口づける。
ひとしきり、互いの唇を貪った後、唐突にロイドを突き放した。

「甲斐性のない部下では困るな」

にっこりと口元だけで笑ったシュナイゼルだが、目は冷ややかにロイドを見据えていた。

「あ、怒ってらっしゃいます?」

この期に及んで、まだ態度を改めないのは、ロイドの悪い癖だ。
こうして言葉遊びのような戯れを許すシュナイゼルも自業自得ではある。

「怒る?……私は、怒ってなどいないよ。ただ……心配なだけだ」

シュナイゼルは再びロイドに手を伸ばし、慣れた仕草で相手の唇に指を這わせた。
穏やかな微笑を湛えたままただ一言告げた。



「そろそろ予算編成の時期だろう?」



「……・……・」



どうやら、奥の手を使われたらしい。
返答に困ったロイドが、ようやく降参したように手を挙げた。

「キス一つで特派の予算額が削られたら堪らないので、以後善処しまぁす」



その言葉にシュナイゼルが満足そうに微笑んだ。










end




ロイシュナのつもりです。
あれ……おかしいな……・ロイシュナのはずだったんですが。
ええと……・シュナロイ?
いや、そんな馬鹿な。

殿下を攻略するのは難しいってコトで!
オトす方も一苦労だけど、誘う方も一苦労なんですよ、きっと。

2007/03/07


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